出版社内容情報
作者がゴーチエに書いたように,「農民」の最初の意図は「片田舎の奥で大地主と貧民との間に交される闘争の描写」にあったが,完成の暁にはこのテーマはさらに拡大され,地方の小都会に巣喰うプチ・ブルジョワの田園侵入にまで進展していた.当時の社会不安を冷酷に分析し,その結果まで予測している異色ある作品.
内容説明
ポーランドの貴族で、のちバルザックと結婚することになるハンスカ夫人の頼みによって書かれ、没後、ハンスカ夫人によってまとめられ刊行されたバルザックの未完の遺稿。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
8
中沢新一が推してたから読み始めた。「農民」というフランス語は狭い意味での農民ではなく貴族でも都市市民でもない者たちの総称としても使われたらしい。この話でも土地を耕す者というより農村を捨てて商売に走った周辺的な人物が多い。革命で自由の味を占めたこの層が、街のブルジョワたちに煽られて貴族に反乱を起こすんだけど、たぶん最後にはブルジョワたちに裏切られる。バルザックの意図はこういう階層の危険を説くことらしいけど、受動的被害者ではなく狡賢く悪意をもった人々として描かれることで、かえって政治的主体性が賦与されてる。2024/04/20
田舎暮らしの渡り鳥
5
今ではフランスの田舎といえば世界中のあこがれだが、この時期には少しばかりの嫌悪感を伴いつつ、正確に描写される。やはりフランス革命以後は良い文学が多い、現在の日本も良い文学ができる「悪い時代」だろう。2019/12/28
uburoi
0
岩波の復刊本を何冊か持っているけれどもおしなべて新字の旧かなづかい。さらに昔の活版印刷かなんかの潰れた文字そのままに印刷されている懐かしさ。いかにも古典を読むという雰囲気はよいが、さすがに読みにくい。農民と田舎暮らしを小説化したものだが、牧歌的というより戦闘的であって殺伐とさえしている。都会の支配したがりと土着の生き残りパワーとの対決もあるし、地主と土地管理人との火花散るような駆け引きもある。おびただしい登場人物が次々出てくる背景の延々としたバルザック的エクリチュールでまったりする余裕など毛ほどもない。2017/11/16