内容説明
江戸の人達は娯楽のための本は買わないで、もっぱら貸本屋から借りて読んだ。貸本屋の売れ筋商品は人情本を除いた実録と読本であったらしい。さらに読本と実録のうち、実録はことさら「貸本屋物」と呼ばれることもあった。読本は新刊本屋で買い求めることも可能であったが、実録だけは貸本屋からしか入手できなかったのである。最も貸本屋と縁の深かった近世文学のジャンルは実録であったと言っても過言ではないだろう。この場合の実録とは事実の記録風の小説の意であり、限られた情報を核に想像を膨らませた、虚構の読み物である。主人公が現代人にもよく知られていることが多いのは、他の近世文学のジャンルと比較した時の実録の特徴と言える。本書はそんな実録を研究したものである。
目次
『世間御旗本容気』の背景
実録「秋田騒動物」攷―馬場文耕作『秋田杉直物語』を中心に
板倉修理の刃傷
文耕著作小考
実録「田沼騒動物」の成立と変遷
宝暦事件・明和事件の実録
実録「加賀騒動物」の諸相―『北雪美談金沢実記』以前
「浄瑠璃坂仇討」の実録
『金氏苛政録』について
『北海異談』について―講釈師の想像力
伊達の対決―実録『仙台萩』攷
『伊達鑑実録』と『伊達厳秘録』と
彦左の変身―実録『大久保武蔵鐙』を中心に
豪傑後藤又兵衛
実録の流れ―妲妃のお百
著者等紹介
高橋圭一[タカハシケイイチ]
1960年徳島生まれ。1982年京都大学文学部文学科(国語学国文学専攻)卒業。1986年京都大学大学院文学研究科(国語学国文学専攻)博士課程中途退学。尾道短期大学(現尾道大学)専任講師を経て、現在、大谷女子大学文学部教授。専攻は日本近世文学
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