内容説明
「嘘ついてやがら。」自分がみた、本当の戦争を伝えるためにこそ、「武蔵」を書くのだ―。厖大な物資と人命をかけて造られた史上最大の戦艦「武蔵」。その建造から沈没に至るまでを支えた人々の巨大なエネルギーとは、一体なんだったのか。作家を突き動かした『戦艦武蔵』執筆の経緯を綿密にたどる取材日記。
目次
戦艦武蔵ノート
城下町の夜
下士官の手記
消えた「武蔵」
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927年東京都生まれ。作家。1966年『星への旅』で太宰治賞受賞。同年『戦艦武蔵』を発表し、記録文学に新境地を拓く。1973年、同作品、『関東大震災』などにより菊池寛賞受賞。1979年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、1985年『冷い夏、熱い夏』で毎日芸術賞、『破獄』で読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞、1994年『天狗争乱』で大佛次郎賞を受賞。戦史、歴史を扱った作品のほか、短篇小説、エッセイをはじめ多くの著作がある。2006年7月死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nnpusnsn1945
50
『戦艦武蔵』そものもは未読だが、取材の裏側は面白い。貴重な造船、海軍関係者との交流は今となっては貴重である。戦後になって論調ががらりと変わったことが執筆の背景らしい。図を盗んで処罰された少年のその後や、戦後になっても機密を恐れる漁師をみると、戦争は傷痕となって残っていることが伺える。取材過程で(私もよく行く)文華堂書店に行って、『丸』を買ったことがあるそうだ。余談だが、吉村さんは取材旅行の時に現地の魚と地酒を飲むのが好きらしい。2021/04/23
ach¡
45
戦艦武蔵のメイキング裏話は勿論、なかなか表に出ない吉村氏の主観が惜しげもなく披露されててキチョー!ぶっちゃけ本編よりオモロじゃまいか。ただこちらを読めばあちらが読みたくなるし、あちらを読めばこちらも読みたくなるし、ヤギさん郵便的現象は必至なのでとりあえずセットで読まれたし。当時の機密保持によって完全密封された武蔵の全容解明がミッションインポッシボーなうえ、時間が経ってからじゃ残そうにも残せなかった記録文学ってやっぱキチョー!武蔵の竣工&進水も綱渡り的だったけど戦艦武蔵が上梓に至るまでの経緯も相当神ってる✧2016/10/19
mondo
37
戦艦武蔵を再読して、今回、戦艦武蔵ノートを読んだ。なるほど、吉村昭にとって、新たな境地となる第一歩の作品がどのように作られたかがよく分かった。一つ一つの事実を繋ぎ合わせる作業は、徹底していて、複数の関係者の証言なくして書かれていない。最後は、睡眠時間を1時間まで削って納期に間に合わせていて、編集者と著者との関係が伝わり興味深い。小説戦艦武蔵は、日本の敗戦を象徴するものとして、考えさせられたが、命をかけてきた人々の姿や運命を揺さぶられてきた人間を描いているところに吉村昭らしさが滲み出ている。2022/08/20
たぬ
33
☆4 3年前に読んだ『戦艦武蔵』(※4.5点をつけました)のための取材日記。予想をはるかに上回る熱量だった。名刺交換をしたのは70人以上とあるから実際に会った人数は100くらいいっているのでは。武蔵が造られた長崎はもちろんのこと、関係者に話を聞きに全国各地へ精力的に通ってる。この膨大な量の証言や調査結果があれだけの作品になったのだね。2022/01/19
№9
20
この「ノート」は、昭和2年生まれの著者が多感な時期を“あの”時代に生きた人間として感じる、戦後以降感じ続けた「違和感」とその心情の吐露を「武蔵」執筆のための取材を通し自問自答した著作、と受け止めることも可能かもしれない。巨大なテーマに立ち尽くしながら、自分の背中を自分で押しながら取材に取り組んでいく真摯な姿には感銘を受けた。沈没した武蔵が実は海底に沈んではおらず、1149におよぶその「防水区画」ゆえ沈みきらず、黒潮本流を漂流しているかもしれないという話が「武蔵」をして戦後日本をも象徴しているように思えた。2013/06/27