内容説明
四国の山深い地に生まれ、上京後まもなく東大生作家としてデビュー、23歳で芥川賞を受賞、1994年にはノーベル文学賞受賞。華々しい活躍とともに時代の寵児となった小説家は、核や憲法九条など戦争と平和をめぐる問題について社会的発言を続けた知識人であり、オピニオンリーダーでもあった。本書では、半世紀以上にわたり書き継がれた数々の作品と発言を隅々まで渉猟し、相互に影響し合った作品と時代の関係を丹念に解き明かしていく。気鋭の戦後史研究者が挑む、画期的評伝。
目次
序章 四国の森から東京へ―一九三五~一九五七年
第1章 「政治の季節」のフロントランナー―一九五七~一九六三年
第2章 “周縁”の共同体、共同体の“周縁”―一九六三年~一九六七年
第3章 抵抗する者たちの実存と構造―一九六八~一九七九年
第4章 「祈り」の共同体―一九八〇~一九九九年
終章 死者たちとともに―二〇〇〇年以降
著者等紹介
山本昭宏[ヤマモトアキヒロ]
1984年、奈良県生れ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。現在、神戸市外国語大学総合文化コース准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yamahiko
14
大江氏の著作と著作をめぐる主だった書評、その時代ごとの氏の発言、それぞれをパラレルに記述しており、(本書著者の過剰な思い入れを差し引いても)氏の著書を読み直すうえで良い手引書だと感じました。私の中では、万延元年のフットボール、洪水は我が魂に及び、懐かしい年への手紙までで止まっていた時間を進めてみようかと思わせるきっかけになりました。2020/02/16
パトラッシュ
9
大江健三郎を読まなくなった理由が自分でもわからなかったが、本書で合点がいった。性や政治を通じて戦いと敗北を描いてきた大江が、文学の方法論を私小説的に小説化する方向へ作風を変化させたためだ。障害者である長男の成長や老いの自覚もあり自省や祈りへギアチェンジしたのだ。特に1980年代以降の日本は相次ぐ天災やテロの続発もあり、真面目に戦うなど馬鹿らしいという感覚が広まった。だとすれば「戦後」が生んだ作家としての大江は失われた「戦後」の死者たちとの記憶に閉じこもってしまったとする指摘は文学の閉塞性を考えさせられる。2020/01/20
格
2
大江に関しては、その著作に多少なりとも足を踏み入れる前からの疑問がある。それは「何故大江の作品は書店に置いていないのか?」という疑問だ。何しろ日本語を用いる作家としては、川端と並んで史上二人しかいないノーベル賞作家だ。ノーベル文学賞の権威を素直に信じるならば、これはもう紛れもなく日本文学の頂点にある作家の筈なのだ。しかしである。僕個人の感覚でしかないかも知れないが、現代におけるその存在感の大きさという意味で、川端と大江が吊り合っているとはどうしても思えなかったのである。2020/07/26
yoyogi kazuo
1
小説家・大江健三郎の軌跡について、時代背景と絡めながら過不足なくまとめられている良書。深い考察を期待して読むと物足りないかもしれないが、ポイントは押さえてあって面白く読めた。2021/03/04