出版社内容情報
政府の軍部「統制」を失敗させ、暴走を招く要因になったとされる統帥権独立制。だが実際は、政治からの軍事の独立確保とともに、軍部の政治介入禁止という複雑な二面性があった。建軍以来の陸軍はこれらをどう認識し、いかに振る舞ってきたのか。宇垣一成・武藤章・東条英機らの動向から、制度や規範意識のなかで揺れ動く昭和陸軍の苦悩に迫る。
内容説明
軍部の暴走を招いた要因とされる統帥権独立制には、政治からの軍事の独立とともに、軍部の政治介入禁止という二面性があった。軍人たちは、これらをどう認識してきたのか。政治との関わり方に苦悩する昭和陸軍に迫る。
目次
歴史とイメージ―プロローグ
明治陸軍と政治
宇垣軍政
陸軍派閥抗争
近衛文麿と陸軍
東条軍政
統帥権独立と政治介入―エピローグ
著者等紹介
〓杉洋平[タカスギヨウヘイ]
1979年、愛知県に生まれる。2014年、國學院大學大学院法学研究科博士課程後期修了。現在、帝京大学文学部専任講師、博士(法学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
15
所謂「統帥権干犯問題」を再考した一冊。軍部による政治介入の根源とするのではなく、むしろ軍人の政治運動を縛り続けた強力な規範であったと見る。ただ何かを「しない」という決断が、他に影響を与える行動になってしまうように、軍人たちの意識の在り方に関わらずその影響は独り歩きしていく。取り上げられている軍人たちの意識は、ある種の潔癖さすら感じるが、政治というのが不特定多数の人々の対話と妥協に依るものだとすれば、むしろただの独りよがりではと。結局、政党を自らと敵対するものと捉えたことが、全ての根源に思える。2022/12/09
CTC
12
22年12月吉川弘文館、著者は帝大文学部専任講師、筒井清忠氏(同大文学部長)の『昭和史講義』等の常連。こういう経歴だと厳しい目で視ることになるのだが…因果の連続が明晰に語られる、識る愉しさを体感できる良書だった。著者の祖父君は兵卒上がりの陸軍准尉、父君は陸自機甲科幹部、著者自身も中卒で3年間海上自衛隊生徒だったという。そういう在り方・経験が、難題を解き明かす原動力になっているかのようだ。『昭和陸軍の軌跡』で川田稔氏を知って以来の出会いのように感じている。2023/02/04
アメヲトコ
11
20年12月刊。戦前の陸軍暴走の根源とされてきた統帥権の独立、著者はこれを政治による軍事介入、また軍事による政治介入を抑止する政軍分離の原則であると捉えます。その原理への潔癖さは、政治と軍事の区別の曖昧であった明治陸軍よりも昭和陸軍の方がはるかに高く、東条英機でさえこの原則のジレンマに苦慮したといいます。戦前の陸軍はしだいに政治に介入して政党や議会を無力化していったという単純な図式とはおよそ異なる実態で、非常に意外でした。あとがきでもふれられていた、小磯内閣時代や戦後への展開などの課題は続編に期待です。2021/05/05
筑紫の國造
10
「統帥権独立」について、一般的に流布されている視点とは別の視覚から記述した良書。「政治への介入」とセットで語られる統帥権であるが、それは本来軍の独立性を維持するために、政治への介入も政治からの干渉も避けるためのものだった。明治草創期の政軍関係から始まり、大東亜戦争まで外観する事で「統帥権」についての別の意味を解説する本書は、新しいスタンダードとなるべきものではないだろうか。文章も読みやすく、おすすめの一冊。古い「統帥権」概念は、そろそろ一般的にも棄却されるべきだろう。2023/01/29
Toska
7
「横暴な陸軍の政治介入」的なステレオタイプを見直すべきとの趣旨は分かる。ただ、軍人たちが主観的には政治を避けているつもりでも、客観的にその行動を見るとどうなのか、という視点は弱いように思う。最後に「統帥権独立を諸悪の根源と見るのは疑問」と述べられているが、個人的には真逆の感想。あれは「元老」なる前近代的な代物にしか使いこなせない欠陥システムであったとしか。宇垣、永田、石原、有末、武藤、東条らそれぞれの個性的な政治構想が詳述されているのは読み応えがあった。2022/08/08