内容説明
ハンセン病、HIV/エイズ、精神病、鬱病、がん。あなたはこれらの病にどのようなイメージを持っていますか?我々は多かれ少なかれ、病と無縁で生きることはできない。病に対する差別や偏見が、言葉を通してどのように形成され、人々に受け入られてきたのかを日本近現代文学に表れた病の表現から考える。
目次
第1章 楽土/ディストピアの言説空間―小川正子「小島の春」におけるハンセン病の言語表象
第2章 隔絶‐他者化の言語表象―北條民雄「いのちの初夜」論
第3章 近代日本のディストピア―長島・明石海人・「奇妙な国」
第4章 エイズの表象
第5章 エイズのイデオロギー
第6章 精神病院の光景―安岡章太郎「海辺の光景」論
第7章 メランコリーの光学―梅崎春生における鬱病の病理とその言語表象
第8章 がん表象の地平―山本文緒「プラナリア」を中心に
第9章 小説・映画の中の障害者像―田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」論
著者等紹介
木村功[キムラタクミ]
1964年兵庫県生まれ。同志社大学大学院文学研究科博士課程(後期課程)単位取得退学。現在、岡山大学大学院教育学研究科教授。日本近代文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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めまい
1
ハンセン病、HIV、がん、障害者といった病・病人に対する社会的認識を現代日本文学における描写から紐解く。観点が特殊なため少し物語の読解に偏りを感じた。例えば『プラナリア』で、がんが主人公の負のアイデンティティを形成した点は相違ないが、プラナリアへの羨望は単なる自己再生能力への渇望のみならず、自身への失望も表裏一体となっている。失望はがん罹患以前から主人公が無自覚に抱いていたものであり、生への執着と不可避の失望を「がん」という孤独な現実が直面させたと見るのが自然である気がした。2022/02/10
そあ
1
がん、精神病、ハンセン病など病の表象という観点からの文学批評 コロナ禍で見受けられた「遊び回ってたから感染したんだ」という風評はHIV/エイズパニックの時代からあったんですね 文学におけるコロナ表象はどう転ぶかわからないが、過去の事例に立ち返って考える際にマイルストーンとなりそうな一冊 終盤読んでると治療主義の陥穽にはまらないようにしたいなーとおもう2021/09/19
さわたろう
0
病や障害についての文学批評だが、主に批判。著者の専門を何も知らずに読み始めたため、そもそも文学という創作物に対しての差別意識の批判をすること自体が的外れな印象だった。もちろん、時代や世間の空気感が文学の中には存在するが、それでもやはり作家一個人の意見や印象でしかない。まして作家の思想と作品内での思想は似て非なるものだ。差別意識の根拠に創作物を持ち出すのは、やはりおかしいと思う。2023/01/23