内容説明
冷戦期、西ドイツは東西対立の最前線で緊張関係を強いられていた。西ドイツの首相であったブラントは、対立から対話、融和を目指し、現在ヨーロッパ統合を推進するドイツ外交の構築に寄与した。本書では、東西の狭間のドイツ外交と分断克服への道筋を射程に、一次史料に基づきながら、その根幹をなすものを明示する。
目次
序章 ブラントの東方政策と東西分断の克服
第1章 バールの構想と分断克服への道―準備段階から政権奪取まで
第2章 ブラント政権の東方政策―モスクワ条約と東西ドイツ関係を中心に
第3章 東方政策と西側との意見調整―モスクワ条約の交渉過程における米英仏との意見調整を中心に
第4章 東方政策とヨーロッパ統合問題―ハーグEC首脳会談を中心に
第5章 東方政策をめぐる西ドイツ国内の議論―一九七二年の連邦議会選挙を中心に
第6章 東方政策の「多国間化」―CSCEの準備過程を中心に
終章 ブラントの東方政策とは何だったのか―分断と統一、東と西のあいだで
著者等紹介
妹尾哲志[セノオテツジ]
1976年大阪府生まれ。1999年立命館大学国際関係学部卒業。2001年神戸大学大学院国際協力研究科修士課程修了(修士:政治学)。2008年ボン大学(Rheinische Friedrich‐Wilhelms‐Univesitat Bonn)哲学部博士課程修了(Dr.phil.)。現在、同志社大学政策学部講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たけふじ
2
「接近による変化」を目指す東方外交の柱になったのが、①将来の再統一を担保するための「暫定性確認」であり、②実務的な交流から始める「小さな歩みの政策」だった。東方外交は、①にも②にも慎重な反応を示すソ連への積極的な働きかけであり、問題を国際化するための西側諸国への働きかけであった。ソ連のCSCE合意への焦りを見透かし、時には自らの政権の弱さをも逆手にとって相手を揺さぶり、「ミスター・ニエット」グロムイコから譲歩を引き出したのは外交の妙だったといえるだろう。2022/02/12
たけふじ
1
久々に再読。1970s西ドイツにおける東方外交の構造について、対東側政策・対西側政策・全欧政策という観点から俯瞰する本。「接近による変化」を掲げて始まった東方外交は、「今すぐ再統一」ではなく「再統一の可能性を保持」するために東側に接近することで緊張緩和を促すところから始まった。そして実務的には倫理的なつながりを重視する「小さな歩み」を進める。人と人との交流と言う小さな歩みが再統一に直結したということは難しいが、再統一の可能性を保持した意味では臆病な共産主義政権と対話を進める上で価値のあるものだっただろう。2016/01/07