内容説明
“京の伝統行事”として知られる地蔵盆。子どもたちによる流行現象にはじまり、現在京都の約8割の町で実施される年中行事へといたったその歴史はどのようなものだったのか。またその歴史のなかでどういった意義が付されてきたのか―。歴史学者が文献調査とフィールドワークの成果を用いて描く、ディープ京都本!
目次
序章 地蔵盆の風景
第1章 京都のお地蔵さま
第2章 地蔵会のはじまりと京都
第3章 近世都市京都と地蔵会
第4章 近代の地蔵会
第5章 地蔵盆の近現代史
終章 地蔵会から地蔵盆へ
著者等紹介
村上紀夫[ムラカミノリオ]
1970年愛媛県生まれ。大谷大学大学院文学研究科博士後期課程中退。博士(文学)(奈良大学)。現在、奈良大学文学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アメヲトコ
8
ありそうでなかった京都の地蔵盆の歴史本。地蔵盆に関する史料を徹底的に博捜して、説得力のある形成過程を描いています。また文献だけにとどまらず、著者自身が徹底的に現地を歩いていることも随所から窺われ、感服すべき成果です。2017/08/31
chang_ume
6
京都「地蔵盆」のおそらく初となる通史。そもそもは「地蔵」ですらない石製「墓標」(石仏や石塔片)が、中世墓地の埋棄と御土居や寛文新堤の建設といった近世前期の京都大開発によって再発見、転用されて信仰対象化する経緯がまず興味深いです。考古資料で後付けできないかな。また地蔵会(地蔵盆)の性格について、住民直接の先祖に加え、借家人をも含んだ過去居住者の霊魂(「地主先祖」)に対するものとした理解は、近世京都の「町」祭祀を理解する上で非常に新鮮でした。近世共同体が包摂したものを考えさせられる。2017/12/24
わ!
3
読み終えて「うん?」と疑問符が浮かぶも、あらためて本のタイトルを読み返すと、なるほどと納得する一冊。つまり地蔵信仰に関しては、くわしくないのは当然ながら、例えばなぜ京都は「地蔵」が中心で、「庚申」や「稲荷」などが街中に無いのか…などの疑問は払拭されません。けれども京都の近現代の地蔵盆の趨勢や、行事の形態変化に関しては、著者なりの答えを用意してくれていて面白かったです。京都における、地蔵盆の始まりの部分をもっと明確にしてもらえればさらに嬉しいです。でもそうなると、地蔵信仰の範疇かもな…と考えてしまいました。2023/05/19
才谷
3
京都の人間にとって地蔵盆は子供の頃に出会う行事(子供のためのイベントと捉えてもらってもいい)ということもあって当たり前のように存在しているものだと感じていたので、その歴史について書かれていたのでとてもおもしろかった。京都ではお地蔵さんはどの町内にも1つくらいはあるだろう(もちろんない所もあるだろうが)と思っていたが、まさか京都市内だけで1万体以上(まだまだ地中に存在していると思われる)あり、元は中世の京都で墓標として使われてきた石仏であったなど驚きである。2018/10/08
まさ影
3
地蔵盆といえば京滋を中心とした関西地方の夏の風物詩である。 これまで地蔵盆についての学術的な書はおもに民俗学的なアプローチによるものが多かったとのことだが、本書は同時代文献・一次史料をもとにした実証的な歴史学の方法論で地蔵盆を考察したほぼはじめての書だそう。 地蔵盆の起源はさほど古くなく近世江戸時代初期だが、それに先立つ中世の地蔵信仰の盛り上がりから説き起こされている(第1章)。地蔵盆の起源となる地蔵会の始まりについて(第2章)は史料の制約もあり推測も多いが、ここが一番おもしろかった。 2017/08/19