出版社内容情報
近世期の出版物のうち圧倒的多数を占める仏書から、近世仏教の実像や当時の出版制度、本屋と寺院の関係等を解明する意欲的論考。【本書の目的】
本書は、近世期の文化の主軸を成した出版文化の中でも、仏書(仏教関係書籍)の出版およびその主体である仏教教団の活動について論じ、近世期の仏書出版の特徴をよく示していると思われる浄土真宗本願寺派を中心に、教団の出版利用を紹介分析している。そして、仏書出版の研究が、書物研究において有効なモデルケースとなる可能性を示すことを目的としている。
【本書の構成】
本書は三部構成となっており、近世期の西本願寺教団の出版物利用の実態を明らかにしている。それを通じて、近世期出版文化の根本を成していた仏書の研究が文化史的意義を持つことを示唆した。
■第一部 新しい仏書
まず仏書の歴史的変遷を述べる。近世期に入り、自らの資本で自律的に書物を生み出す本屋の出現により、仏書は商品となり誰でも手に入れることができるようになった結果、中世までとは規模も性質も全く異なると結論した。
■第二部 聖教の板株を巡って
三章にわたって西本願寺が行った聖教蔵板活動を追った。まずその嚆矢である『真宗法要』の出版経緯から、聖教による教団の統制や他寺院との争い、さらに縮刷版の流の経緯を示した。
これが近代へそのまま受け継がれている点は、近世と近代が連続していたことを示すだろう。
■第三部 出版制度と教団
出版問題に介入する御用書林の性質について論じた。町板が柔軟に購買層のニーズに応じた結果、版権が細分化し、本山でさえ民間の聖教の版権を購入しなくてはならない状況を明らかにした。
また本山が門末に突き動かされ、各寺院の序列を示した公家鑑を刊行し続けるに至る経緯を明らかにした。
以上、本書では、西本願寺資料を駆使し、また書物の内容ではなく姿に注目することで、京都の出版文化を特徴付ける、最も個性的な教団のメディア利用の実態に迫った。
近世仏書の文化史??西本願寺教団の出版メディア??目次
序章
第一節 これまでの書物研究
第二節 仏書研究の可能性
第三節 本書の構成
■第一部 新しい仏書
第一章 出版資本と仏教
第一節 室町時代までの概観
第二節 近世期の仏教教団と出版制度
第三節 新しい仏書の出現
第二章 新しい仏書の展開
第一節 享受者の拡大
第二節 『御文』の近世出版文化
第三節 文学と唱導
■第二部 聖教の板株を巡って
第一章 聖教叢書『真宗法要』開版
第一節 本山による聖教開版の機運
第二節 『真宗法要』開版までの経緯
第三節 『真宗法要』開版の意義
第二章 寺院間の聖教蔵版争い
第一節 末寺の蔵版阻止
第二節 新しい聖教叢書の刊行
第三章 縮刷版の流行
第一節 ゆらぐ本の格
第二節 偽版から中本御蔵版へ
第三節 中本聖教の流行
第四節 近世から近代へ
■第三部 出版制度と教団
第一章 本山と本屋
第一節 本山と本屋仲間
第二節 御用書林の性質
第二章 町版の多い勤行本
第一節 玄智校訂本『浄土三部経』の板株
第二節 本山と『正信偈和讃』町版
第三章 公家鑑を巡る争い
第一節 掲載順序を巡って
第二節 新しい公家鑑および地誌の刊行
終章 文化史研究の可能性
第一節 総括
第二節 文化史としての仏書
図版一覧/初出一覧/あとがき/索引
万波寿子[マンナミ ヒサコ]
著・文・その他
内容説明
本は文化を創る。江戸時代の出版物のなかで圧倒的多数をほこる仏教関係書籍。豊かな仏書の世界から、教団における知のあり方、教団組織の実態、さらには当時の社会そのものに迫る。近世とは何かを問う意欲的論考。
目次
第1部 新しい仏書(出版資本と仏教;新しい仏書の展開)
第2部 聖教の板株を巡って(聖教叢書『真宗法要』開版;寺院間の聖教蔵版争い;第3章 縮刷版の流行)
第3部 出版制度と教団(本山と本屋;町版の多い勤行本;公家鑑を巡る争い)
文化史研究の可能性
著者等紹介
万波寿子[マンナミヒサコ]
1977年、広島県生まれ。2007年、龍谷大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2010年、博士(文学)。龍谷大学非常勤講師・日本学術振興会特別研究員(PD)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。