出版社内容情報
「河北新報」 2013.3.11より
東北学院大の名誉教授と教授ら4人が、東日本大震災を検証し、口碑伝承が生活を守る知恵であったことを専門知識や文献研究、取材、実体験を踏まえて解説した。副題の「口碑伝承をおろそかにするなかれ」が象徴するように、言い伝えを重くみていれば、「想定外」という言葉が安易に発せられることはなかったのではないか。災害とどう向き合うべきかを問う、警告の書とも言える。・・・略・・・さらに、「理科年表」で慶長津波(1611年)と明和八重山津波(1771年)などの記述を調べた結果、口碑伝承は無視され、記事や数字は中立的ではなく、矮小化されているのではないかと疑問を呈している。
「図書新聞」2013年5月25日より 評者:岩鼻通明(山形大学農学部教授・人文地理学)
過去の記録や口碑伝承から東日本大震災を分析する―被災地発かつ被災者の手による、歴史学・民俗学的な分析視点!
東日本大震災から早くも二年が過ぎ、巷には大震災関連の出版物が数多く出回り、中には便乗本まであるという。その中で、半年ほど前から予告を目にして刊行が待ち遠しかったのが本書である。・・・(略)・・・さて、本書は被災地の仙台にある東北学院大学のスタッフの手によるもので、この大学自体も大震災によって大きな被害を受け、いわば被災地発かつ被災者の手によることが大きな特色となっている。そして、その分析視点は歴史学および民俗学的であり、・・・(略)・・・口碑伝承の重要性を指摘した本書は震災研究において画期的な意義を有する。岩本氏は伊達正宗の治世に仙台平野を襲った慶長津波の記録に着目し、とりわけセバスチャン・ビスカイノの『金銀島探検報告書』をめぐる誤読が慶長津波のネガティヴ・キャンペーンに結びついていることを明らかにした。・・・(略)・・・河野幸夫氏は、自然科学者として貞観津波の研究を進める中から、今回の大震災にともなう津波襲来の可能性を事前に予測されていた・・・(略)・・・菊池慶子氏は、仙台平野沿岸部で江戸時代を通じて、営々と植林された黒松の沿岸林の多くが大震災で失われたことを受けて、震災前の沿岸林の景観と歴史的に形成されてきた沿岸林の環境を復元した。・・・(略)・・・佐々木秀之氏は、大震災時に被災地の消防団員として活動した記録を中心に、震災復興をも含めて論じており、前述の津波シミュレーションの矮小化が被害を拡大したことと、震災復興においても自治体のばらばらな対応を批判的に指摘している。・・・(略)・・・随所に小気味よい権力批判を織り込みながらの論述は大いに共感を呼ぶものであり、真の復興に欠かせないものであると痛感した。過去の教訓を未来に生かすという意味からも、多くの人々、とりわけ現代科学が万能であると信じ切っている若者に一読をおすすめしたい。
目次
第1章 400年目の烈震・大津波と東京電力福島第一原発の事故(現福島県浜通りは“貞観津波”の激甚地帯;“慶長津波”の到達点をめぐる口碑と記録 ほか)
第2章 仙台湾海底遺跡の発見と仙台平野を襲う大津波(貞観津波)について(仙台湾海底遺跡調査と大根堆;貞観津波のシミュレーションについて ほか)
第3章 失われた黒松林の歴史復元―仙台藩宮城郡の御舟入土手黒松・須賀黒松(仙台市宮城野区中野・蒲生・岡田地区の現在;藩政期の村の開発と松林 ほか)
第4章 消防団体験から書き起こす東日本大震災―仙台平野にみる津波シミュレーションの功罪(東日本大震災における消防団員としての私の行動;蒲生地区の歴史津波と現代における津波シミュレーション ほか)
第5章 口碑伝承をおろそかにするなかれ(『理科年表』における記述の変化;寺田寅彦にとっての地震と災害 ほか)
著者等紹介
岩本由輝[イワモトヨシテル]
1937年東京・東中野に生まれる。1967年東北大学大学院経済学研究科博士課程修了・経済学博士(東北大学)。現在、東北学院大学名誉教授
河野幸夫[コウノユキオ]
1949年塩釜市に生まれる。1977年米国ユタ州立大学大学院環境土木工学研究科前期課程修了。現在、東北学院大学工学部教授、博士(工学、東北学院大学)
菊池慶子[キクチケイコ]
1955年秋田市に生まれる。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科(修士課程)修了。現在、東北学院大学文学部教授
佐々木秀之[ササキヒデユキ]
1974年仙台市に生まれる。2011年東北学院大学大学院経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学、東北学院大学)。現在、東北学院大学東北産業経済研究所特別研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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後藤良平