内容
著者「はしがき」より
翻訳の過程は,おおまかに“ 解釈 ”と“ 表現 ”という二つの部分に分けられるが,“ 表現 ”(または“ 訳し方 ”)の適否や巧拙がかかわるのは「悪訳」であって,「誤訳」ははっきりとした“ 解釈 ”の誤りに由来するものである.
このような誤訳を生む解釈の誤りは,語句や構文,各種の文法事項など多岐にわたり,趣も多様である.
たとえば,単語を読み誤れば「あこがれ」が「あくび」になり,語義の区別を誤れば「大酒樽を腹に詰めこむ」事態も生じる.
また,文法的考察を誤れば,「この上なく良好」と大統領が明言した二国間の関係が「良好だったことはない」に変わったり,「子供を殺すことはできないように,捨てることもできない」という女性の気持が「子供を捨てるくらいなら殺すわ」という言葉になってしまったりもする.
本書では,こういったさまざまな誤訳のなかから,興味深く,啓発的で,応用性の高い,典型的な例を選び,タイプやレベルによって系統的に分類して要点をわかりやすく解説し,場合に応じて類例を示した.
「翻訳の常識」としての誤訳の諸相も,英文解釈の問題点も,そして押さえておくべき文法の勘所も,その全般的な実例が一通り収められている.