本書は、「ロマン主義とは何か」を分かりやすく示してくれますが、ベートーベンやドラクロワに代表される芸術運動としてのロマン主義よりも、現代政治の思想と行動や現代の文化と倫理を理解したい人にお勧めの第一級の良書です。
本書は、バーリンが原稿なしに行った一般向講演なので、高校の世界史程度の知識しかなくても殆ど理解できます。本書の基は、評価の定まった「大家」「碩学」しか呼ばない米国の国立美術ギャラリーのA.W.メロン講義であり、やさしく書かれていても膨大な資料と考察・検証からバーリンが「そう認識していいですよ」と判断した内容なので、安心して読むことができます。
バーリンは、私たちが高校の世界史でドイツ観念論として一まとめにされていたカント、ヘルダー、フィヒテ、ヘーゲル、そしてロマン派詩人として教わったシラーやバイロン達を、ドイツの置かれた歴史的背景を説明しながら、ロマン主義の「自由」概念の変質という経糸によって結び付けていきます。最後に「意志の必然性と事物の構造の欠如」を本質とするロマン主義が、現存する構造の否定と拒否に進んで、ファシズムやマルクス主義に、個人の多様性尊重と自己責任に向かって、実存主義に繋がっていくという説明は、まさに「敏腕のドライヴァーの車に同乗しているスリル」を満喫させてくれます。特にストイックなカントの自由の概念(道徳律)が、ナチズムによるユダヤ人の大量殺戮という歴史的事実にどう繋がっていくのかという第3章から第5章にかけては、倒叙の推理小説を読むような面白さがあります。
このように本書は、芸術運動としてのロマン主義よりも、政治や文化に与えた影響が主題なので、近代・現代史を読み解くための史書であると同時に、現代の日本の政治思想や文化を考えていくための視点を提供してくれる本でもあります。
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バーリンロマン主義講義 単行本 – 2000/12/15
「私は今,どれだけ向こう見ずに思われようと,私にとってロマン主義の核心であると思われるものについて,語っておきたい」-稀代の碩学であるバーリンが,生前に遺した講義の全貌が甦る.ロマン主義がわれわれに残した偉大なる達成とは何か.その諸相が鮮やかに浮かび上がるA.W.メロン講義(1965年)の記録.
- 本の長さ249ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2000/12/15
- ISBN-104000029789
- ISBN-13978-4000029780
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
稀代の碩学であるバーリンの、生前に遺した講義の全貌。ロマン主義革命が遺した偉大なる達成とは何か。その諸相が鮮やかに浮かび上がるA・W・メロン講義(1965年)の記録。
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2000/12/15)
- 発売日 : 2000/12/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 249ページ
- ISBN-10 : 4000029789
- ISBN-13 : 978-4000029780
- Amazon 売れ筋ランキング: - 361,153位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 14位マニエリスムの美術史
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