著者は京大西洋古典学を背負って立つ逸材。多くの優れた翻訳のほかにも、本書のような肩の凝らない好エッセイ集をものしていて、ことごとく面白くためになる。ギリシア・ローマのみならずインド・中国・日本にも及ぶ学殖の博大、詩藻の豊潤は、年齢（1947年生）を考えるとほとんど驚異的であって、東の沓掛良彦がかろうじて匹敵するか。
本書の姉妹編『饗宴のはじまり』には、「女の立ち小便」を論じる長い文章もあって、中務が、堅い一方の学者先生ではなく、南方熊楠や金関丈夫といった、ギャラントな書き手の系譜にあることを証している。こういう人はいまどき珍しいから大切にしましょう。
師匠の松平さんや岡さんの教育もよかったのだろう。業績はわずか、良い意味の啓蒙書すら書けない東大系の人材払底ぶりを見るにつけ、出藍の誉れの至難なることに感慨を覚える。
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