散策中、あちこちでムクゲの花に出会いました。一日花で、いろいろな色のムクゲがありますが、その涼しげな花の佇まいが暑さを一瞬忘れさせてくれます。因みに、本日の歩数は13,937でした。
閑話休題、なぜか急に、同年代の作家・赤川次郎が30代半ばに書いた『三毛猫ホームズの青春ノート』(赤川次郎著、岩波ブックレット。出版元品切れだが、amazonで入手可能)を読み返したくなってしまいました。
本書は小説ではなく、彼の半生記+読書論です。私は、以前から彼の率直な語り口が好きです。「読む力の衰えは感じます。30代半ばでこんなこと言っていちゃいけないのでしょうが、学生時代、読み始めたとたん、文庫本が絶版になって、結局読みそこなったプルーストの『失われた時を求めて』(文庫本で13冊もあった!)は、大きな本で全巻を買って来てすでに3年近く。未だに読めないままです」。
友との出会い、本との出会いについて語っています。「――一冊の本との出会いは(特に優れた本の場合は)、一人の人間との出会いに等しい価値を持っています。僕は中学高校と通った桐朋学園での6年間で、何人もの親友を得ましたが、同時に、何十、何百の活字の友人たちに出会いました。人間の親友に出会うには、幸運も必要ですが、活字の友人たちは、捜して求めて行けば、親交を結ぶことができます。手帳に並んだ活字の友人たちを眺めていると、もしこの友人たちに出会うことがなかったら(もちろん作家になることもなかったでしょうが、それは別として)、人生はどんなに寂しいものになっただろうか、という思いがします」。
影響を受けた作家と作品についても述べられています。「この小説(高校1年から2年にかけて書いた騎士物語――未完に終わった1500枚くらいの大長編)を書くきっかけになったのが、このころ熱中していた、シュテファン・ツヴァイクの、『マリー・アントワネット』(岩波文庫)でした。僕に、小説を書くきっかけを与えたのが、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』なら、小説を一生書き続けようと決心させたのが、シュテファン・ツヴァイクです。・・・そしてこの自伝(『昨日の世界』)の中の言葉、『人間は、その筋肉においておろそかにしたものは、後でもなお取り戻すことができる。・・・年若くして、魂を広く拡げることを学んだ者のみが、後に全世界を自己の内に捉えることができるのである』を、手帳に書き抜いては、そうだ、その通り、と肯いていたものでした。もちろん、ツヴァイクに熱中したのは、その境遇が羨しかったからでなく、小説が面白かったからです。フロイトに学んだツヴァイクの短編小説はどれも、人間の情熱の一瞬を、熱に浮かされたような迫力のある筆致で捉えています」。
今でも忘れられない、心に残る授業に言及しています。「この先生の(世界史の)授業は、大変にダイナミックでした。いや、別に大げさだっというのじゃなくて、歴史の『動き』を、何とかして生徒に伝えようという情熱があったのです。もっとも、生徒の方に、受け止める情熱があったかどうかは少々疑問でしたが・・・。ともかく、熱のこもった授業は、僕の心を捉えて離しませんでした。――この先生のおかげで、歴史に興味を持つようになったのだから、やはり先生の影響というのは大きなものです」。
「文章力、表現力は、どんな職業においても、必要なことです。いや、職業についていない主婦の方々でも、意をつくした手紙を一本書く能力があるかないかでは、ずいぶん生活の幅が違って来るでしょう。どんな社会であれ――たとえエレクトロニクスの最先端の研究所に勤める人でも――そこには昔ながらの人間関係があり、喜怒哀楽の日々があります。言葉を知っていること、自分の考えを表現できること。――学生生活で、ここまでは身につけておくことが必要ではないかと思います」。
「そしてもう一つ、僕が今、若い読者の方々と会ったときなどにお願いしているのは、『歴史を勉強して下さい』ということです。今日、世界で起っていることは、昨日の事情を知らなければ理解できません。昨日を理解するにはさらにその前のことを・・・。結局、今の社会に起っていることは、何百年――ことによったら何千年の歴史の『つづき』なのです。連載小説を途中で一回だけ読んだって、面白くも何ともないように、今の世の中をよく見通すには、長い歴史をさかのぼって知っておくことが大切です」。赤川の読書に対する考え方、歴史に対する考え方、そして情熱重視の姿勢に大賛成です。
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三毛猫ホームズの青春ノート (岩波ブックレット) 単行本 – 1984/11/20
赤川 次郎
(著)
- 本の長さ63ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1984/11/20
- ISBN-10400004978X
- ISBN-13978-4000049788
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1984/11/20)
- 発売日 : 1984/11/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 63ページ
- ISBN-10 : 400004978X
- ISBN-13 : 978-4000049788
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,119,918位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 153,114位ノンフィクション (本)
- - 284,066位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1948年、福岡県生まれ。’76年、「幽霊列車」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。「三毛猫ホームズ」「夫は泥棒、妻は刑事」シリーズなどミステリーの他、サスペンス、ホラー、恋愛小説まで幅広く活躍(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 幽霊物語 下 (ISBN-13: 978-4198931827 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2015年6月28日に日本でレビュー済み
2013年11月27日に日本でレビュー済み
タイトルに『三毛猫ホームズ』とありますが、推理小説シリーズの1冊ではなく、著者の学生時代から作家になるまでの若き日々を辿ったエッセイです。約60ページで、とても読みやすいです。
特に印象に残るのは、その読書体験です。氏の作品については毀誉褒貶様々ですし、私自身もいくつかの作品は読んでいますが、感心した作品もあれば感心しない作品があったことも事実です。しかし、本書を読むと、氏の作品が生み出されきた背景にいかに多くの読書体験、それも多数の世界的名作によって培われてきたものがあることがよく分かります。
また、氏にとって、何よりも小説を「書くこと」自体が楽しみであり、その延長として作家としての赤川次郎が誕生したことも理解できます。
受験における挫折も含め、氏自身の生活における信条など、小説だけでは伺い知ることができないことが、分かりやすい文章で綴られています。
氏の良き読者ではない私ですが、刊行から約30年を経過しても手放すことなく、時には読み返している1冊です。
特に印象に残るのは、その読書体験です。氏の作品については毀誉褒貶様々ですし、私自身もいくつかの作品は読んでいますが、感心した作品もあれば感心しない作品があったことも事実です。しかし、本書を読むと、氏の作品が生み出されきた背景にいかに多くの読書体験、それも多数の世界的名作によって培われてきたものがあることがよく分かります。
また、氏にとって、何よりも小説を「書くこと」自体が楽しみであり、その延長として作家としての赤川次郎が誕生したことも理解できます。
受験における挫折も含め、氏自身の生活における信条など、小説だけでは伺い知ることができないことが、分かりやすい文章で綴られています。
氏の良き読者ではない私ですが、刊行から約30年を経過しても手放すことなく、時には読み返している1冊です。