大学3年の頃、この本で初めてマッツィーニを知りました。何の気なしに書店で手に取り、電車の中で流し読みをしたのですが、最初の一回では何が重要かぴんと来なかったものです。しかし、幾つかのフレーズが妙に気になって、時代背景など齧った上で改めて読み返している内に魅了されて行く自分がいました。
「男女平等、教育の重視、人類の進歩とヨーロッパ統合」が解説の中で挙げられていますが、マッツィーニ最大の魅力は「義務」についての独特な観念と、イタリアに生まれるであろう統一国家に向けた一共和主義者としてのヴィジョンだと思います。
マッツィーニの生きた時代、イタリアは統一国家にあらず、貴族の所領や法王領、都市国家が乱立し、フランスとオーストリアの覇権闘争の舞台と化していた訳ですが、ルネッサンス以降少しづつ統一国家建設への気運が芽生えていました。如何にして近代国家を建設するか。国家の形は君主政か、共和政か。
共和主義者マッツィーニはリソルジメント運動の先駆けと言って良い人物ですが、彼の思索には若き日に亡命していたフランスで得た経験が大きな影響を与えていた様に思います。宗教や共同体の支配から民衆を解放し、国民国家の力で人民の権利を確立しようとしたフランス革命。しかし、誕生した最初の共和制は迷走の果てに瓦解します。それは何故か。
王侯貴族や法王の支配から脱した人民のイタリアを模索していたマッツィーニにとって、フランス革命とフランス共和国は理想であると同時に、克服すべき課題であったのだと思います。マッツィーニはここで、人民が自らの「義務」を自覚して新しい国家を建設しない事には、統一国家が出来たところで、権利と権利が衝突し、規範を失った国家は瓦解すると訴えます。
少し雑な説明ですが、それがこの本の根幹だと思います。男女平等や教育の重視は、それを実現する手段であると言えるし、彼の言うヨーロッパ統合は、今のEUの様な経済優先のそれとは大分性格が異なります。おまけに、彼なりの政教分離なのだと思うのですが、「教会は純粋に祈る場所であるべき」というのを論説するのに、かなりの文字を使っています。
…そう、この人は独特過ぎるというか、クセが強い上に難解なんです(それが良いとこでもあるんですが)。頭でっかちで、「崇高な理想の為なら、明日の生活なんて知ったことじゃないよ!」って人生を地で行く人なので、民衆蜂起の為の計画を練って実行する度に失敗しては海外に亡命するを繰り返してます。次第に仲間達からも「あの人は頑固で妥協を考えない夢想家」、「現実が見えてない」と呆れられて孤立しかけてたりします…。
そう、言ってみれば残念な人です。でも、それ以上に「熱い人」でもあったりするんです。自分の理想を純粋に信じてると言うか…、小手先の演説で大衆を誤魔化すなんて事はまるで出来ない不器用な人物で、自分の信じたものの為に人生丸ごと投じてる凄い人なんです。
一時期、自分から後輩のガリバルディの義勇軍に一兵卒として飛び込んだり、ガリバルディとは反発しあった時期もあったものの、晩年には友情を確かめ合っていたりと、何気にドラマティックな人生。
結局、イタリアは彼の理想とは違う君主国として統一され、彼には富も実権ももたらされる事はありませんでした。しかし、彼は夢破れても尚も自分の信念を叫びながら晩年を生き抜きました。うーん、熱い。痺れる。
不器用で、理想を押し通す事以外に生きる術を知らなかった男。それでも彼が凄いのは、彼がイタリア統一のファーストペンギンだと言う事。彼が最初に行動を起こした事で、ガリバルディやカブールが動き出し、イタリアが統一されたという事(彼の理想とした形かは疑問ですが、今のイタリアは共和国にも成っています)。不器用で、純粋で、情熱を失わなかったマッツィーニ。この本は彼の叫びそのものだと思います。
余談ですが、マッツィーニを読むなら先にフランスの共和主義を知っておくと参考にもなるし、同じ共和主義でありながら違いが見えて面白い気がします。レジス・ドブレとかが分かり易いんですが。インドのガンディーも愛読したというマッツィーニ。分かり辛いけど、是非とも多くの人に親しんで貰いたいです。
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マッツィーニ 人間の義務について (岩波文庫) (岩波文庫 白 27-1) 文庫 – 2010/6/17
近代イタリア建国の志士マッツィーニ(1805-72)。権利に先立つ義務を説き、民族を意職の共有と捉え、ヨーロッパの調和の中に祖国統一を唱えた。この思想家・教育者・革命家の言葉は、EUなど今日の西欧の姿を予言し、時空をこえて現代日本の労働者にも女性や子供にも伝わる。人権感覚あふれる19世紀の名著。(解説=藤澤房俊)
- 本の長さ220ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2010/6/17
- ISBN-104003402715
- ISBN-13978-4003402719
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2010/6/17)
- 発売日 : 2010/6/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 220ページ
- ISBN-10 : 4003402715
- ISBN-13 : 978-4003402719
- Amazon 売れ筋ランキング: - 718,585位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年11月3日に日本でレビュー済み
ところどころ瞠目すべきフレーズや分析に出会うし、権利よりも義務を説く革命の書というのは斬新である。でも、なんだか上から目線でお説教くさい。こんなんでイタリアの労働者を奮起させることができたのだろうか?文章で読むものを感奮させるということでは幸徳秋水なんかの方が上ですナ。
2010年12月15日に日本でレビュー済み
イタリア建国の思想的父ジュゼッペ・マッツィーニが、イタリアの労働者階級に捧げた小著。フランス革命その他によって確立された人権。だが、19世紀を通じ、少数への富の集中の傾向が顕著になり、格差は拡大。人民は困窮するばかりとなっていく。なぜ人々の生活は向上しないのか?イタリア建国の志士マッツィーニは、過去の諸革命は、自由を中心とする「権利」を基盤にしていたと指摘する。だが、権利に先立つ義務が各人によって明確に認識されないことには、人々の生活は決して向上しない。日々の生活に困窮する人々に、政治的自由や教育を受ける権利を授けても意味をなさない。だが、義務が意識されることなくして富める者は富の再配分には応じないのである。本書は、労働者階級の人々自身がまず義務を認識し、義務の共同体としての国民国家を建設することで人類への義務を果たす。それだけが人々は権利を獲得し、生活を向上させる唯一の方策であると説く。「祖国なしには、君たちは名もしるしも選挙の投票も権利もなく、諸国民から同胞としての洗礼を受けることができません。・・・先に祖国を勝ち取らなくても不当な社会的条件から解放されるなどという幻想を抱いてはなりません。祖国がないところには、それを根拠に主張のできる共通の合意などは存在しないのですから。そこでは各々を守ってくれる共通の擁護制度がないために、利害のエゴイズムのみが君臨し、優位に立つ者がそれにものを言わせます。」
なぜ人権はナショナルな市民権に取り込まれていくのか?19世紀の人権と20世紀の国民国家の時代との間を架橋する思想だといえる。見逃すことのできない一冊だと思う。
なぜ人権はナショナルな市民権に取り込まれていくのか?19世紀の人権と20世紀の国民国家の時代との間を架橋する思想だといえる。見逃すことのできない一冊だと思う。
2010年8月23日に日本でレビュー済み
19世紀、イタリア統一の思想基盤をつくった、マッツィーニによる啓蒙書。
「人類に対する義務」
「祖国に対する義務」
「家族に対する義務」
などから構成されている。
彼の注目すべき点はナショナリズム論で、このころのナショナリスト・活動家が、どのようにナショナリズム・民族主義を考えていたのかがよく分かっておもしろい。
中でも興味深いのは、ナショナリズムや「人民」の独立を、人類や神といった普遍的な現象と調和的に理解している点である。マッツィーニは、人民の独立が、地域や人類の分裂を生み出すなどとはみじんも考えておらず、むしろ人類やヨーロッパの団結や社会的結束(アッソチアティオーネ)を高める、とさえ考えている。
たとえば「神がこの世での実現を望んでおられる計画の一部は人類が一体となってこそ実現するものなのですから、個々の人間に慈悲を施す代わりに、みんなが一緒に向上するような社会的結束のために働き、そのために家庭と祖国を整えるのです」。
ここには、普遍的な目的のために、国民国家を創設する、という典型的な「よいナショナリズム」の思想がみてとれる。
マッツィーニいわく、国民国家(祖国)の重要性は「個人はあまりに微力であり、人類はあまりに大規模だからです」、とのこと。ヨーロッパの調和のためにも、全ての土地に国民国家、それぞれの人民の祖国が設立されなければならず、それによってヨーロッパの調和がもたらされるとのこと。
むろんこのような理論には、現代のナショナリズム論からすると限界があるが、一部の本質を鋭く突いている(主権、国民国家の構成要素、など)ので、いまだに十分に参考になる点が少なくない。このヨーロッパで19世紀に生成された思想が、のちに世界中を覆いつくし、国民国家のシステムが波及したこを考えれば、読む価値は十分にあると思われる。ナショナリズムの名著に入る一冊。
「人類に対する義務」
「祖国に対する義務」
「家族に対する義務」
などから構成されている。
彼の注目すべき点はナショナリズム論で、このころのナショナリスト・活動家が、どのようにナショナリズム・民族主義を考えていたのかがよく分かっておもしろい。
中でも興味深いのは、ナショナリズムや「人民」の独立を、人類や神といった普遍的な現象と調和的に理解している点である。マッツィーニは、人民の独立が、地域や人類の分裂を生み出すなどとはみじんも考えておらず、むしろ人類やヨーロッパの団結や社会的結束(アッソチアティオーネ)を高める、とさえ考えている。
たとえば「神がこの世での実現を望んでおられる計画の一部は人類が一体となってこそ実現するものなのですから、個々の人間に慈悲を施す代わりに、みんなが一緒に向上するような社会的結束のために働き、そのために家庭と祖国を整えるのです」。
ここには、普遍的な目的のために、国民国家を創設する、という典型的な「よいナショナリズム」の思想がみてとれる。
マッツィーニいわく、国民国家(祖国)の重要性は「個人はあまりに微力であり、人類はあまりに大規模だからです」、とのこと。ヨーロッパの調和のためにも、全ての土地に国民国家、それぞれの人民の祖国が設立されなければならず、それによってヨーロッパの調和がもたらされるとのこと。
むろんこのような理論には、現代のナショナリズム論からすると限界があるが、一部の本質を鋭く突いている(主権、国民国家の構成要素、など)ので、いまだに十分に参考になる点が少なくない。このヨーロッパで19世紀に生成された思想が、のちに世界中を覆いつくし、国民国家のシステムが波及したこを考えれば、読む価値は十分にあると思われる。ナショナリズムの名著に入る一冊。