はじめて恐竜に関する本の通読を試みた。しばらくして、これは日本の恐竜に関する本なのだと気づいた。そりゃそうだ、日本って書いてある。と思ったところで、この本には映画に出てくるようなスゴイ恐竜は出て来ないんだろうな、ティラノサウルスとかトリケラトプスなどは関係ないんだろうな、と半ば無意識に思いながらページを繰っていた。巨大で獰猛な恐竜はアメリカとかロシアあたりにいて、日本には無難な、カバかカメに毛の生えたようなものが住んでいそうだ、あとはアンモナイトかなんかの話でお茶をにごしておしまいかな、という漠たる予感のなかで読み始めた。だが、そんなことはなかったのだ。地球史的には当然のことだが、ワクワクするような、想像力が飛躍跳梁する世界の話であった。
といっても強面（こわもて）の恐竜が面前に突如出現するのではない。それでは逆効果だろう。そこに想像力のはいりこむ余地はない。そうではなくて、小さな歯のかけらに筋が入っているとか、突起物があるとか、そういう些細な、つまらぬ端緒だ。しかし、そこからドキドキするような広大な世界が、研究者の目の前に開けていく様子が描かれていて、読者はそれを追体験できる構成になっている。われわれが住む日本に、少なくとも同じ大地の上に、ＳＦ映画に出てくるような光景が広がっていたことの小さな証拠が見出される瞬間、もしかしたらこれは大発見かもしれない、と思いながら化石をクリーニングしているときの状況、そうした生々しい研究の現場をかいま見せてくれる。さらに、クリーニングという言葉の意味から、それに使う器具の具体的な形状、その作業の困難さまで、恐竜商売の実際を教えてくれる。
他にも啓発はあった。これらの作業は文系的な、孤独な作業ではなくて、人々の連携によって成り立っていることがよく分かった。「サイエンスに国境はない」という真鍋氏の言葉は、月並調に聞こえるけれど、きっとそうなんだろうな、という実感を読者にもたらす。モンゴルもドイツも南米もない、言葉の壁がすぐになくなる世界であろうことが腑に落ちた。
最初と終りにまとめがあり、あいだに何人かの探検者の体験談が並んでいる。ほどほどの体系を俯瞰でき、また複数の視点からなる現場報告は、入門者におのづからなる本質観取の機会を与えてくれる。ほどよい重複があり、ほどよい展開があった。
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