この本は、ＮＨＫが放送した『ドキュメント昭和』と言ふシリーズ番組の内容をまとめた単行本の一つである。放送当時、私は、この一連の番組を興味深く見、それまで知らない事を色々学んだ。しかし、今思へば、それは私がそれまでいかに現代史を知らなかったかの裏返しで、この程度の番組と本に驚いて居た当時の自分の知識のレベルを思ふと、今は、赤面の至りである。
ＮＨＫの番組をまとめた本であるから、東京裁判史観、ニュールンベルク裁判史観を踏み越える内容の本ではない。しかし、それでも、日独伊三国同盟成立以前、ヒトラーが、日本、ドイツ、イギリス、ポーランドの四か国による四国同盟の構想を抱いて居たと言ふ本書の内容は、余り知られて居ない事であり、一読に値する物である。写真が多い事も魅力的ではある。しかし、言ふだけ野暮だが、ＮＨＫの番組や単行本が語る「現代史」は、「政治的配慮」で一杯である。（笑）例えば、同じ『ドキュメント昭和』のシリーズに、満州事変前後の国際情勢を回顧した『十字架上の日本』と言ふ本が有るが、この本では、中国に遠慮して、満州事変以前、張作霖・張学良親子の暴政が満州住民をいかに苦しめて居たかとか、満州国成立後、多くの中国人が、治安が良く、経済発展がめざましい満州に職を求めて流入したと言った事が語られて居ない。本書もそうしたＮＨＫの「政治的配慮」の枠を出る本ではないが、ヒトラーの四国同盟構想とそれがイギリス外務省によって一蹴される過程の記述は、ドイツがポーランドとの開戦に至る経緯を知る一助として、一応、貴重な物ではないかと思ふ。
（西岡昌紀・内科医）
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