国際政治学の世界にはいくつかの代表的な理論がある。
社会科学、就中国際政治学において理論とは、世界の一つの見方の体系を意味するが、むしろいずれも「一つの見方にしか過ぎない」と敢えて言い切ることが重要だ。
ある理論の立場から世界を見れば世界は◯◯のように見え、また別の理論の立場から世界を見れば世界は△△のように見える、とする。
この時、国際政治学の世界では、これらのいずれかが正しく他方が間違っているという扱いはしない。
確かに対象とする事象に応じてより説得力を持つ理論・立場が生じるため、その時々により理論・立場に優劣が見られることはあるだろう。
しかしそのこと以上に、◯◯という見え方と△△という見え方を総合して世界を捉えていくことが、国際政治学においては重要となる。
こうした国際政治学における理論の位置付けを前提に、現代国際政治学において極めて重要かつ有力な五つの理論を、世界を見るための「視座」として紹介したのが本著である。
本著が取り扱う五つの理論(視座)と、各々の大家とその著作の組み合わせは以下のようになっている。
①勢力均衡 ⇔ モーゲンソー『国際政治』
②地政学 ⇔ マッキンダー『地政学』
③文明の衝突 ⇔ ハンチントン『文明の衝突』
④世界システム ⇔ ウォーラーステイン『近代世界システム』
⑤成長の限界 ⇔ ローマ・クラブ『成長の限界』
国際政治学を学ぶにあたっては、上記の右側の著作は全て基礎段階における必読文献である。
しかし基礎段階で必読な理由は、内容が易しいからでは決してなく、非常に強力な代表的理論であるからだ。
その内容はいずれも多くの事例を対象とした膨大な実証研究を背景に定式化された理論であるため、初学者にとってはむしろ難解とすら言えるかもしれない。
(定式化された内容そのものは理解できても、何故そのように定式化可能なのかを理解するのは難しいということ。)
そこで、本著のような各理論の概説が役に立つ。
恐らく初学の準備の段階で、この五つの理論を相互に比較しながら概観を掴めるのは、大きな手引きとなるはずだ。
因みに、私が国際政治学を大学で学んだ際には本著はなかった。
ハンチントン『文明の衝突』が発刊されたばかりの時期で、その功罪を巡り専門家も在野も検証の只中であった。
モーゲンソー『国際政治』は今ある岩波文庫の上中下巻のものはなく、12,000円のハードカバーであった。
国際政治学を学ぶにあたっての良書である。
正直今の学生が羨ましい。
是非国際政治学に取り組む上での手引きとして活用されたし。
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国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」 (講談社選書メチエ) 単行本(ソフトカバー) – 2015/12/11
篠田 英朗
(著)
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本書の第一章では、国際秩序への挑戦として紛争をとらえることを論じた。第二章は、東アジアの現状を勢力均衡の理論的視座を用いて分析。第三章は地政学の観点から欧州に焦点をあてた。第四章は中東情勢と文明の衝突という考えかたをぶつけ、第五章は格差社会としての国際社会の問題として、アフリカを世界システム論などを手がかりに論じた。第六章はアメリカの対外的な軍事行動の背景に、「成長信仰」の観点から迫った。
本書は、現代国際社会の全体動向のなかで紛争を理解していくために、いくつかの代表的な理論を題材として取り上げながら、構造的に武力紛争の背景を探ることを試みた。
第一章では、まず現代国際社会の秩序の特徴を見たうえで、国際秩序への挑戦として紛争をとらえることを論じた。第二章は、東アジアに焦点をあて、勢力均衡の理論的視座を用いながら、紛争構造を分析することを試みた。第三章は、ヨーロッパに焦点をあて、地政学の理論的視座を用いた分析を試みた。第四章は、中東情勢を論じるにあたって、文明の衝突という考えかたを参照してみる作業をおこなった。第五章は、アフリカを格差社会としての国際社会の問題としてとらえるために、世界システム論などを手がかりにすることを試みた。第六章は、アメリカによる対外的な軍事行動を、成長の限界を克服するための運動としてとらえることを試みた。
本書がこれらの試みをおこなったのは、日本においてとくに、紛争分析に問題関心が集まる機会があまりなく、とくに理論的な視座を駆使した分析の機会が少ないことを補うという意図をもってのことであった。
本書の議論だけでは不足があることは当然だ。しかし紛争分析とは、単に混沌とした情報を並べることではなく、ときには理論的視座も駆使しながら、目に見えない社会の動きの性格を把握していくことなのだということを、少しでも示唆することができたとすれば本書の執筆にはそれなりの意味があったということになるだろう。
(「むすびに」より)
本書は、現代国際社会の全体動向のなかで紛争を理解していくために、いくつかの代表的な理論を題材として取り上げながら、構造的に武力紛争の背景を探ることを試みた。
第一章では、まず現代国際社会の秩序の特徴を見たうえで、国際秩序への挑戦として紛争をとらえることを論じた。第二章は、東アジアに焦点をあて、勢力均衡の理論的視座を用いながら、紛争構造を分析することを試みた。第三章は、ヨーロッパに焦点をあて、地政学の理論的視座を用いた分析を試みた。第四章は、中東情勢を論じるにあたって、文明の衝突という考えかたを参照してみる作業をおこなった。第五章は、アフリカを格差社会としての国際社会の問題としてとらえるために、世界システム論などを手がかりにすることを試みた。第六章は、アメリカによる対外的な軍事行動を、成長の限界を克服するための運動としてとらえることを試みた。
本書がこれらの試みをおこなったのは、日本においてとくに、紛争分析に問題関心が集まる機会があまりなく、とくに理論的な視座を駆使した分析の機会が少ないことを補うという意図をもってのことであった。
本書の議論だけでは不足があることは当然だ。しかし紛争分析とは、単に混沌とした情報を並べることではなく、ときには理論的視座も駆使しながら、目に見えない社会の動きの性格を把握していくことなのだということを、少しでも示唆することができたとすれば本書の執筆にはそれなりの意味があったということになるだろう。
(「むすびに」より)
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2015/12/11
- 寸法12.8 x 1.7 x 18.8 cm
- ISBN-104062586177
- ISBN-13978-4062586177
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商品の説明
著者について
篠田 英朗
篠田英朗(しのだ・ひであき)
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大学(LSE)で国際関係学Ph.D.取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現在、東京外国語大学総合国際学研究院教授。専攻は国際関係論、平和構築。。著書に『国際社会の秩序』(東京大学出版会)、『平和構築と法の支配―国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『平和構築入門』(ちくま新書)などがある。
篠田英朗(しのだ・ひであき)
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大学(LSE)で国際関係学Ph.D.取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現在、東京外国語大学総合国際学研究院教授。専攻は国際関係論、平和構築。。著書に『国際社会の秩序』(東京大学出版会)、『平和構築と法の支配―国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『平和構築入門』(ちくま新書)などがある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2015/12/11)
- 発売日 : 2015/12/11
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 304ページ
- ISBN-10 : 4062586177
- ISBN-13 : 978-4062586177
- 寸法 : 12.8 x 1.7 x 18.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 385,114位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年8月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2017年4月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
国際紛争を読み解くための5つの視座についてそれぞれ綿密に記載されており、教科書として使われていても良いレベルだと思いました。抽象的なフレームワークと具体的な事象の双方を様々な形で行き来しつつ国際関係の読み解き方を学べる良著です。以下は各視座について私が興味深く感じた点です。
【勢力均衡】
〇東アジアの紛争は、中国の超大国としての台頭による勢力均衡メカニズムの変動という構造的要因によって説明される。WWII後に「国際政治」を著したハンス・モーゲンソーは「国際的なバランス・オブ・パワーは一般的な社会原理の特殊なあらわれにすぎない」「あらゆる均衡の目的はシステムの構成要素(※国家)を破壊せずにその安定性を維持すること」とした。モーゲンソーはかつてのイギリスのような「バランサー」を欠いた硬直した冷戦期の二極構造を警戒していた。キッシンジャーも同様であった。
〇勢力均衡理論の対抗理論とも補強理論ともなりうるのはバンドワゴン理論(勝馬に乗る)。最強国の覇権が判明してくると中小国が同盟関係を求めて動き出す。最終的には一つの勢力に諸国が集結する可能性を示す。1989年の東欧革命を経験した諸国はNATOやEUに加盟している。
〇中国は東欧とは対照的に、ニクソンショックや天安門事件により二極構造から抜け出し米中その三極構造に移行していたため、冷戦終結後に一極構造への展開は起こらなかった。今ではあらゆる政治問題(TPP, AIIB)が勢力均衡の道筋を見極めるための議題となっている。
〇中国が思い浮かべるのが「東アジアは中国が覇権を握る」シナリオ、日米が思い浮かべるのが「東アジアでも二極分化が維持される」シナリオ。南アジアやアフリカでは中国の影響力が高まりつつある。
〇日本の対中包囲網の抜け穴は韓国であり、韓国の位置づけは最も切実。
【地政学】
〇マッキンダーが1904年に発表した「歴史の地理的回転軸」では、ハートランドのランド・パワーは歴史法則的に拡張主義を取るため、外洋に向かって勢力圏を拡大させるシー・パワーは大陸中央部からの回転軸(ロシア)の拡張に対抗して抑え込む政策を採らざるを得ないとした。また、フランス、イタリア、エジプト、インド、朝鮮半島などを橋頭保(Bridge Head)と呼び、これを抑えて初めて海洋国家は大陸諸国をけん制するための足掛かりを持つことができるとした。
〇マッキンダーの有名なテーゼ「東欧を支配するものはハートランドを制し、ハートランドを支配するものは世界島を制し、世界島を支配するものは世界を制する。」1907年の英露協商はドイツの東欧支配への警戒のため。ドイツは二度の大戦で陸と海の二正面作戦を強いられた。
〇スパイクマンは1942年に修正を加え「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制す」とした。NATOはリムランドを続々と制し、ロシアはウクライナやジョージアを死活的利益とみなしこれに反対した。
〇中国は海を求めて拡張するハートランドではなく水陸両用のリムランド。常に挟み撃ちに会う危険性をはらんだドイツと酷似している。露西亜との関係を深めているのはドイツに似ている。
〇東欧の重要性は、世界島の中心に位置してハートランドと海洋の双方に通じている平野部であることにあり、他に類例がない。
【文明の衝突】
〇比較的無名であったフクヤマの「歴史の終わり」のテーゼに納得できなかった人々は、ハンチントンのテーゼに飛びついて冷戦終焉後の世界の将来の全体像を論じる基盤とした。
〇ハンチントンは民主主義の浸透度が宗教という文明的要素の相違によることを発見した。つまりプロテスタント国の次に新たに民主主義国に生まれ変わっていった諸国にはカトリック国が多く、イスラム圏においては民主化は定着していない。
〇西欧文明に対抗する文明単位として「東アジア」があるという印象は21世紀の世界では大きく減退しているが、イスラム文明に対する言説には今でも臨場感がある。もしアメリカに協力しているのが非イスラム主義的な裏切り者でしかないとしたら、イスラム圏の中にもアメリカに協力するものがいるといった指摘は意味がなくなる。むしろアメリカの陰謀で支配者となっている不心信者を排斥してイスラムを純化すべきという主張が説得力を持つ。アメリカの傀儡と目される人々がイスラム圏を代表する者として認知される可能性は低く、アメリカがもがくほど彼らの地位は低下する。
〇オスロ合意がパレスチナにもたらしたのはパレスチナの分裂(穏健派ファタハ・過激派ハマス)と闘争。文明の衝突は、誰が文明を代表するかから始まる。この戦いはアメリカの介入によって複雑化する。
【世界システム】
〇イマニュエル・ウォーラーステインの「世界システム論」とは、「中心」と「周辺」「半周辺」をもつ国際分業体制。16世紀にヨーロッパ諸国を中心にして資本主義の「世界システム」が開始されたとした。三角貿易におけるアフリカ大陸は典型的な「周辺」地域。イスラムや資本主義の動向に影響される。
〇ジャレド・ダイアモンドによれば、アフリカに文明が発達しなかったのは南北に大陸が伸びていたため。ユーラシア大陸では同じ気候の下にある異なる文明圏の間で農業技術などの伝播が容易に進められ、相互影響の結果としての技術革新が次々と生まれた。
〇世界システムの周辺においても、システムの中心につながって利益を得ている一部の階層と、そうではない大多数の階層の間に、断層がある。
【成長の限界】
〇ロックは、貨幣経済の活動は人間の自然権に根差した神聖な行為であり、富の拡大という社会全体の全ももたらすものだとして、賞賛した。
〇「明白な運命」とは、神によって合衆国は政治的・領土的に卓越した国家となるべく運命づけられている、という身勝手な拡張主義を言い表す概念。1840年代に登場。同じ思想を言い表したのはトマス・ジェファソンが説いた「自由の帝国(奴隷制擁護・先住民虐殺)」の概念。インディアン戦争から21世紀の対テロ戦争までをこの一続きの思想で捉えることができる。
〇独立戦争後に国力を整え、1823年に第五代大統領ジェイムズ・モンローが唱えたのが、旧世界と新世界の相互不干渉とアメリカの勢力圏における介入主義を主張したモンロー・ドクトリン。これは道徳的な優越を前提とした宣言であった。ウィルソンは「私が提案しているのは、いわば諸国家がモンロー大統領のドクトリンを、世界のドクトリンとして、一つの合意として採用することである。」とした。また封じ込め政策で知られるトルーマン・ドクトリンによって本格化した冷戦構造は、自由主義陣営のモンロー体制の確立によるものであった。敵か味方かのお二項対立的な選択を迫る「ブッシュ・ドクトリン」もこの拡大版と言える。
【勢力均衡】
〇東アジアの紛争は、中国の超大国としての台頭による勢力均衡メカニズムの変動という構造的要因によって説明される。WWII後に「国際政治」を著したハンス・モーゲンソーは「国際的なバランス・オブ・パワーは一般的な社会原理の特殊なあらわれにすぎない」「あらゆる均衡の目的はシステムの構成要素(※国家)を破壊せずにその安定性を維持すること」とした。モーゲンソーはかつてのイギリスのような「バランサー」を欠いた硬直した冷戦期の二極構造を警戒していた。キッシンジャーも同様であった。
〇勢力均衡理論の対抗理論とも補強理論ともなりうるのはバンドワゴン理論(勝馬に乗る)。最強国の覇権が判明してくると中小国が同盟関係を求めて動き出す。最終的には一つの勢力に諸国が集結する可能性を示す。1989年の東欧革命を経験した諸国はNATOやEUに加盟している。
〇中国は東欧とは対照的に、ニクソンショックや天安門事件により二極構造から抜け出し米中その三極構造に移行していたため、冷戦終結後に一極構造への展開は起こらなかった。今ではあらゆる政治問題(TPP, AIIB)が勢力均衡の道筋を見極めるための議題となっている。
〇中国が思い浮かべるのが「東アジアは中国が覇権を握る」シナリオ、日米が思い浮かべるのが「東アジアでも二極分化が維持される」シナリオ。南アジアやアフリカでは中国の影響力が高まりつつある。
〇日本の対中包囲網の抜け穴は韓国であり、韓国の位置づけは最も切実。
【地政学】
〇マッキンダーが1904年に発表した「歴史の地理的回転軸」では、ハートランドのランド・パワーは歴史法則的に拡張主義を取るため、外洋に向かって勢力圏を拡大させるシー・パワーは大陸中央部からの回転軸(ロシア)の拡張に対抗して抑え込む政策を採らざるを得ないとした。また、フランス、イタリア、エジプト、インド、朝鮮半島などを橋頭保(Bridge Head)と呼び、これを抑えて初めて海洋国家は大陸諸国をけん制するための足掛かりを持つことができるとした。
〇マッキンダーの有名なテーゼ「東欧を支配するものはハートランドを制し、ハートランドを支配するものは世界島を制し、世界島を支配するものは世界を制する。」1907年の英露協商はドイツの東欧支配への警戒のため。ドイツは二度の大戦で陸と海の二正面作戦を強いられた。
〇スパイクマンは1942年に修正を加え「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制す」とした。NATOはリムランドを続々と制し、ロシアはウクライナやジョージアを死活的利益とみなしこれに反対した。
〇中国は海を求めて拡張するハートランドではなく水陸両用のリムランド。常に挟み撃ちに会う危険性をはらんだドイツと酷似している。露西亜との関係を深めているのはドイツに似ている。
〇東欧の重要性は、世界島の中心に位置してハートランドと海洋の双方に通じている平野部であることにあり、他に類例がない。
【文明の衝突】
〇比較的無名であったフクヤマの「歴史の終わり」のテーゼに納得できなかった人々は、ハンチントンのテーゼに飛びついて冷戦終焉後の世界の将来の全体像を論じる基盤とした。
〇ハンチントンは民主主義の浸透度が宗教という文明的要素の相違によることを発見した。つまりプロテスタント国の次に新たに民主主義国に生まれ変わっていった諸国にはカトリック国が多く、イスラム圏においては民主化は定着していない。
〇西欧文明に対抗する文明単位として「東アジア」があるという印象は21世紀の世界では大きく減退しているが、イスラム文明に対する言説には今でも臨場感がある。もしアメリカに協力しているのが非イスラム主義的な裏切り者でしかないとしたら、イスラム圏の中にもアメリカに協力するものがいるといった指摘は意味がなくなる。むしろアメリカの陰謀で支配者となっている不心信者を排斥してイスラムを純化すべきという主張が説得力を持つ。アメリカの傀儡と目される人々がイスラム圏を代表する者として認知される可能性は低く、アメリカがもがくほど彼らの地位は低下する。
〇オスロ合意がパレスチナにもたらしたのはパレスチナの分裂(穏健派ファタハ・過激派ハマス)と闘争。文明の衝突は、誰が文明を代表するかから始まる。この戦いはアメリカの介入によって複雑化する。
【世界システム】
〇イマニュエル・ウォーラーステインの「世界システム論」とは、「中心」と「周辺」「半周辺」をもつ国際分業体制。16世紀にヨーロッパ諸国を中心にして資本主義の「世界システム」が開始されたとした。三角貿易におけるアフリカ大陸は典型的な「周辺」地域。イスラムや資本主義の動向に影響される。
〇ジャレド・ダイアモンドによれば、アフリカに文明が発達しなかったのは南北に大陸が伸びていたため。ユーラシア大陸では同じ気候の下にある異なる文明圏の間で農業技術などの伝播が容易に進められ、相互影響の結果としての技術革新が次々と生まれた。
〇世界システムの周辺においても、システムの中心につながって利益を得ている一部の階層と、そうではない大多数の階層の間に、断層がある。
【成長の限界】
〇ロックは、貨幣経済の活動は人間の自然権に根差した神聖な行為であり、富の拡大という社会全体の全ももたらすものだとして、賞賛した。
〇「明白な運命」とは、神によって合衆国は政治的・領土的に卓越した国家となるべく運命づけられている、という身勝手な拡張主義を言い表す概念。1840年代に登場。同じ思想を言い表したのはトマス・ジェファソンが説いた「自由の帝国(奴隷制擁護・先住民虐殺)」の概念。インディアン戦争から21世紀の対テロ戦争までをこの一続きの思想で捉えることができる。
〇独立戦争後に国力を整え、1823年に第五代大統領ジェイムズ・モンローが唱えたのが、旧世界と新世界の相互不干渉とアメリカの勢力圏における介入主義を主張したモンロー・ドクトリン。これは道徳的な優越を前提とした宣言であった。ウィルソンは「私が提案しているのは、いわば諸国家がモンロー大統領のドクトリンを、世界のドクトリンとして、一つの合意として採用することである。」とした。また封じ込め政策で知られるトルーマン・ドクトリンによって本格化した冷戦構造は、自由主義陣営のモンロー体制の確立によるものであった。敵か味方かのお二項対立的な選択を迫る「ブッシュ・ドクトリン」もこの拡大版と言える。
2015年12月30日に日本でレビュー済み
現在国際政治で起きている様々な問題、特に国際紛争と戦争を、国際政治学の5つの理論(グランドセオリー)に依拠してより深い理解を試みた本。
すなわち、具体的には、①勢力均衡論(東アジア)、②地政学(欧州)、③文明の衝突(中東と対テロ戦争)、④世界システム(アフリカ)、⑤成長の限界(アメリカ)という五つの視座による分析である
紛争分析において、理論的な視座が必要との著者の本書での問題意識は正当である。
大学の教室で習う国際政治の諸理論を現在進行中の国際問題に当てはめて考えてみる作業は、必要なだけでなく、とてもスリリングである。
その意味では、確固たる理論的な視座を持たぬまま国際問題を論じる類書とは、この本は一線を画している。
同時に、このような作業は、理論が現実に対して持つ限界を露呈している。
現実は複雑であり、理論は、その複雑な現実を読み解くとりかかりになるかもしれない。
しかし、現実の紛争は、往々にして真実(又は「悪魔」)は細部に宿っており、理論だけでは説明できないことが多い。
それどころか、ある理論に依拠することで、又はその理論にこだわるあまり、重要な事実や経緯やディテールを無意識にか、意図的にか見落としてしまう過ちに陥る危険性が常にある。
残念ながら、この本の分析もこの種の過ちを犯してしまっていると思われる箇所が少なからずある。
上記の①から⑤の理論と問題の組み合わせもなぜそうなったのか、いずれの問題にもすべての理論が関わってくると思われる。
おそらくは、この組み合わせが一番説明しやすいとの配慮かもしれないが、もしそうであるならば、目的と手段が逆転しているのではないか。
本書の問題提起は知的に刺激的ではある。
しかし、ここで提示された手法は、現実に紛争分析を行うに当たって、ある程度は有用かもしれないが、十分には有効ではないように思われる。
紙数の問題はあろうが、理論の持つ有効性だけではなく、理論が持つ限界を個別の事例の中で具体的に示すことができればより有益な本になったのではないか。
すなわち、具体的には、①勢力均衡論(東アジア)、②地政学(欧州)、③文明の衝突(中東と対テロ戦争)、④世界システム(アフリカ)、⑤成長の限界(アメリカ)という五つの視座による分析である
紛争分析において、理論的な視座が必要との著者の本書での問題意識は正当である。
大学の教室で習う国際政治の諸理論を現在進行中の国際問題に当てはめて考えてみる作業は、必要なだけでなく、とてもスリリングである。
その意味では、確固たる理論的な視座を持たぬまま国際問題を論じる類書とは、この本は一線を画している。
同時に、このような作業は、理論が現実に対して持つ限界を露呈している。
現実は複雑であり、理論は、その複雑な現実を読み解くとりかかりになるかもしれない。
しかし、現実の紛争は、往々にして真実(又は「悪魔」)は細部に宿っており、理論だけでは説明できないことが多い。
それどころか、ある理論に依拠することで、又はその理論にこだわるあまり、重要な事実や経緯やディテールを無意識にか、意図的にか見落としてしまう過ちに陥る危険性が常にある。
残念ながら、この本の分析もこの種の過ちを犯してしまっていると思われる箇所が少なからずある。
上記の①から⑤の理論と問題の組み合わせもなぜそうなったのか、いずれの問題にもすべての理論が関わってくると思われる。
おそらくは、この組み合わせが一番説明しやすいとの配慮かもしれないが、もしそうであるならば、目的と手段が逆転しているのではないか。
本書の問題提起は知的に刺激的ではある。
しかし、ここで提示された手法は、現実に紛争分析を行うに当たって、ある程度は有用かもしれないが、十分には有効ではないように思われる。
紙数の問題はあろうが、理論の持つ有効性だけではなく、理論が持つ限界を個別の事例の中で具体的に示すことができればより有益な本になったのではないか。
2017年6月6日に日本でレビュー済み
海洋国家と大陸国家の対立、それを見越して現代でも価値を持ちマッキンダーの視点、成長の限界、様々な角度から世界情勢を紐解く。
2019年1月26日に日本でレビュー済み
国際社会を構造的に分析し、理論的な視野を持って分析することの大切さがよくわかりました。
2016年1月20日に日本でレビュー済み
タイトルの通りさまざまな視座から国際紛争について論じています。
国際政治学者が書いた本といえば、主権国家をやたら強調した、力による均衡を論じるものが少なくありません。筆者はそのような一面的な見方に疑問を呈します。
特定のイデオロギーや学説に依る事なく、理論と実践の両面から国際社会を読み解こうという筆者の試みは素晴らしいと思います。
国際関係論、国際政治学、国際法を学ぶ全ての人にお勧めします。
国際政治学者が書いた本といえば、主権国家をやたら強調した、力による均衡を論じるものが少なくありません。筆者はそのような一面的な見方に疑問を呈します。
特定のイデオロギーや学説に依る事なく、理論と実践の両面から国際社会を読み解こうという筆者の試みは素晴らしいと思います。
国際関係論、国際政治学、国際法を学ぶ全ての人にお勧めします。
2016年5月24日に日本でレビュー済み
本書は現代における国際紛争を理論的に分析することにより、国家内における構造的な矛盾だけでなく、現在の国際秩序を形成する国際制度と現実との間に存在する乖離により生じる対立構造を明らかにしようとするものである。いずれもその重要性ゆえに議論を巻き起こした国際政治学における五つの代表的な理論 -モーゲンソーによる勢力均衡論、マッキンダー地政学の議論、ハンチントンによる「文明の衝突」論、ウォーラーステインの「世界システム論」、そしてマサチューセッツ工科大学の研究者たちによる『成長の限界』報告書- を参照しながら世界各地の武力紛争を分析することを試みた本書は、紛争という形で表出する事象を捉える総体的な視点を持つ上で、参考となる考え方を提示してくれる。特筆すべきは、あたかも地域的な事象としてあらわれる現代の武力紛争が、実は筆者が述べる「普遍化した自由主義的制度が標準化した」今日の世界においてみられる普遍主義への挑戦としてとらえることができることを本書が示唆している点である。筆者は現代世界の国際秩序が実は短い歴史しかもたないからこそ、その制度を定着させるために国連PKOや人道的介入、貧困削減などにみられるような多大な努力を国際社会が払っていることを強調した上で「われわれが標榜する国際秩序は、本当に維持する努力に値するものなのか」、という問いを提示する。現存する矛盾を明らかにするために必要とされる問いを導きだすためにも、理論的な視座、客観的な分析力が求められることが説明された内容は、知識を整理していく上でも有用である。