ファンの間では余り相対評価の高くない作品集だけど、それでもやっぱりその辺の「純文学作家」よりは遥かに凄いことをやっていると思う。一見、血生臭くハチャメチャでぶっ壊れた筋の中に、「世界に暴力が存在してしまうこと」のどうしようもない哀しさと、だからこそ語られる家族や夫婦・恋人の間の愛情へのポジティブな思いがいつも通り書き込まれている作品が並んでいます。僕は舞城作品の持つこのポジティブさが好きです。不可解だけど確実に存在する暴力のシステムをきちんと描いているからこそ、彼が書くポジティブさが上っ面なものにならないで済んでいると思うんですね。
出身地の福井や調布を舞台として一人称で語られる登場人物の内面の語りは、そのまま「世界」「暴力」「愛」に関する作家本人の思索の吐露のようです。暴力が絶対的に存在することに対して舞城氏が持ってくることが多いのが「親子・家族の愛」というのも慧眼だと思っています。だって、血縁関係というのは主体的選択の結果存在するわけではないので、そういう意味では暴力のシステムと同じくらい不条理なものなのですから。でも、だからこそ暴力への対抗力になるはずだという作家の祈りにも似たメッセージを僕は彼の作品から感じずにはいられません。
本書一番のお気に入りは表題作。思春期の主人公が選択するラストの出来栄えはやっぱり感動もんでしょう。「スクールアタック・シンドローム」も悪くないけど、包丁を振り回す年頃の息子のパッションを漠然とした「感情の連鎖」を鍵に理解しようとする主人公には若干納得できなかったですかね。それでも、一冊全体としての仕上がりは十分五つ星に値する本だと思います。
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みんな元気。 (新潮文庫) 文庫 – 2007/5/29
舞城 王太郎
(著)
夜中に目覚めると、隣の姉が眠りながら浮かんでいた――。あの日から本当に色んなことが起きた。竜巻が私たちの町を襲い、妹の朝ちゃんは空飛ぶ一家に連れさられてしまう。彼らは家族の交換に来たのだった(表題作)。西暁町で繰り返される山火事と殺人の謎(「矢を止める五羽の梔鳥」)。単行本『みんな元気。』から3篇をセレクト。21世紀旗手による、〈愛と選択〉の短篇集。
- 本の長さ216ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2007/5/29
- ISBN-104101186324
- ISBN-13978-4101186320
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2007/5/29)
- 発売日 : 2007/5/29
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 216ページ
- ISBN-10 : 4101186324
- ISBN-13 : 978-4101186320
- Amazon 売れ筋ランキング: - 692,234位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2005年11月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
大炸裂です。何を考えてこれ芥川賞の候補にすらならなかったのでしょう。
表題作は家族のあり方というものを徹底的に書いた作品。だと、一回読んだときは思った。だけど、再読してみると、むしろ人生においての選択をテーマを取り入れたテーマだと思う。選択肢を選ぶとき、選ばなかった人生と選ばれる人生も存在するわけで、とそんな感じ。やっぱりなぜかしら愛に溢れているこの作風はやはり独特ですばらしいです。
個人的に一番おすすめはスクールアタックシンドローム。学校が次々に襲われる話ですが、あまりにあまりにもで面白い。
ただ、舞城王太郎の中で一番読みにくい、とっつきにくい作品なのは確か。初めて舞城を読む人はやはり熊の場所や煙か土か食い物なんかがお勧め。
表題作は家族のあり方というものを徹底的に書いた作品。だと、一回読んだときは思った。だけど、再読してみると、むしろ人生においての選択をテーマを取り入れたテーマだと思う。選択肢を選ぶとき、選ばなかった人生と選ばれる人生も存在するわけで、とそんな感じ。やっぱりなぜかしら愛に溢れているこの作風はやはり独特ですばらしいです。
個人的に一番おすすめはスクールアタックシンドローム。学校が次々に襲われる話ですが、あまりにあまりにもで面白い。
ただ、舞城王太郎の中で一番読みにくい、とっつきにくい作品なのは確か。初めて舞城を読む人はやはり熊の場所や煙か土か食い物なんかがお勧め。
2004年11月5日に日本でレビュー済み
この本には表題作となっている「みんな元気。」に加え、短編が数編収録されています。
その作品のほとんどに暴力描写が含まれているけれど、舞城氏の表現したい真実はもっと別のところにあると思っています。
家族愛・友愛・恋愛などの愛情や、人間的な葛藤・曖昧さ……など、
読み手によって、感じるところはさまざまでしょうが、私にとっては、舞城氏の作品を読んでいて常に愛情を感じています。
それは時として苦しいほどであったり不条理であったりするけれど、確かに愛情です。
暴力描写があるというイメージで避けたりしないで、ぜひ読んでみてほしい作品です。
その作品のほとんどに暴力描写が含まれているけれど、舞城氏の表現したい真実はもっと別のところにあると思っています。
家族愛・友愛・恋愛などの愛情や、人間的な葛藤・曖昧さ……など、
読み手によって、感じるところはさまざまでしょうが、私にとっては、舞城氏の作品を読んでいて常に愛情を感じています。
それは時として苦しいほどであったり不条理であったりするけれど、確かに愛情です。
暴力描写があるというイメージで避けたりしないで、ぜひ読んでみてほしい作品です。
2007年11月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
悪くないけど、他の作品に比べると完成度が低かった。
元々は『みんな元気。』って言う単行本に、この文庫版『みんな元気。』と『スクールアタックシンドローム』がまとめられてたみたいだけど、文庫なら『スクールアタックシンドローム』の方がはるかに完成度が高いと思う。
発想・構想はいいんだけど、舞城のよさである「無茶苦茶なんだけど最後は上手い具合にまとまってくる感」があまり感じられない。
とりあえず書いてやったぜ!!で終っている。
でも才能の片鱗を感じることは出来る。
元々は『みんな元気。』って言う単行本に、この文庫版『みんな元気。』と『スクールアタックシンドローム』がまとめられてたみたいだけど、文庫なら『スクールアタックシンドローム』の方がはるかに完成度が高いと思う。
発想・構想はいいんだけど、舞城のよさである「無茶苦茶なんだけど最後は上手い具合にまとまってくる感」があまり感じられない。
とりあえず書いてやったぜ!!で終っている。
でも才能の片鱗を感じることは出来る。
2004年11月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ぼくも、ようやく前作ぐらいから薄々感じてたんですけども、舞城作品は結構強いメッセージを放射してるんです。
それはとても前向きなもので、元気でいこう、よく考えよう、正しく生きよう、人類を愛そう、愛こそすべてって感じで、彼独特のグロテスクでキッチュな世界に散りばめられている。相変わらず、人は飛ぶわ、全国のイトウタカコが次々と殺されるわ、猫がトトロになっちゃうわ、三人の高校生が学校襲撃して六百二十三人を殺してしまうわと、あまりにも世紀末的なカタストロフィーが次々とあらわれるが、でも真のメッセージはそういうこと、『愛こそすべて』なのだ。う~ん、舞城君ってチャーミングじゃのう。
それはとても前向きなもので、元気でいこう、よく考えよう、正しく生きよう、人類を愛そう、愛こそすべてって感じで、彼独特のグロテスクでキッチュな世界に散りばめられている。相変わらず、人は飛ぶわ、全国のイトウタカコが次々と殺されるわ、猫がトトロになっちゃうわ、三人の高校生が学校襲撃して六百二十三人を殺してしまうわと、あまりにも世紀末的なカタストロフィーが次々とあらわれるが、でも真のメッセージはそういうこと、『愛こそすべて』なのだ。う~ん、舞城君ってチャーミングじゃのう。
2007年8月9日に日本でレビュー済み
相変わらず疾走感のある文章でぐいぐいと読ませてくれたが、今までの舞城になかった「あざとさ」が垣間見え、純粋な気持ちで読めなかった。
また、舞城の文章は、そのものがファンタジーであり丸裸のメッセージであるところが魅力であったと思うのだが、内容自体が所謂幻想小説の態に近いものがあり、幻想に幻想を掛けてもより面白くなるわけではなく、ただ支離滅裂な言葉の羅列が続いてしまったように思える。
あまりにも無防備な所が魅力だった舞城が、守勢に入ってしまったように私的には感じた。
また、舞城の文章は、そのものがファンタジーであり丸裸のメッセージであるところが魅力であったと思うのだが、内容自体が所謂幻想小説の態に近いものがあり、幻想に幻想を掛けてもより面白くなるわけではなく、ただ支離滅裂な言葉の羅列が続いてしまったように思える。
あまりにも無防備な所が魅力だった舞城が、守勢に入ってしまったように私的には感じた。
2006年5月17日に日本でレビュー済み
短編集ですが、全体を通した感想です。
舞城作品を殆ど読んでいましたが、
今回の飛びっぷりには驚きました。
内容的に支離滅裂に感じる人もいるでしょう。
他の作品を読んでからの方が良いかもしれません。
舞城作品では人が傷つき死んでいく描写が多く、
今作品も例外ではありませんが、
そのような描写から対極にある優しさが際立ち、
何だか心が暖まってしまうのです、不思議なことに。。。
舞城作品を殆ど読んでいましたが、
今回の飛びっぷりには驚きました。
内容的に支離滅裂に感じる人もいるでしょう。
他の作品を読んでからの方が良いかもしれません。
舞城作品では人が傷つき死んでいく描写が多く、
今作品も例外ではありませんが、
そのような描写から対極にある優しさが際立ち、
何だか心が暖まってしまうのです、不思議なことに。。。
2008年8月31日に日本でレビュー済み
表題作は、ある晩いきなりお姉ちゃんがベッドから宙に浮いているのを発見した語り手(女)が、いろいろなトラブルに巻き込まれる話。相変わらずあの勢いがあるので好きな人にはお勧めだけど、最近の作品で明らかなようにまとまりがない。わざとなんだろうけど、いろいろなプロットが絡み合って発散していく。例えば:
・小学生の同級生のモデルみたいな女子に迫られる。いつの間にか消える。
・そのモデルみたいなの子の彼氏(がいるのだ)のことを好きな「イトウタカコ」という子が登場する。それで、日本中で、「イトウタカコ」という名前の女性が突然次々に死体で発見されるが、なぞは放り出されたまま。
・お姉ちゃんの彼氏が自分を口説くので悩む。ときどき関係を持つ。もっと悩む。あまり解決されず。
・妹が空から来た変な家族にさらわれる。この奪還が小説の主要なモチーフのように見えるが実はそうではないかもしれない。
という感じ。こういうのを一つずつ短編にすればいいのに。『熊の場所』くらいのときは、そうやってたと思うんだけどな。あの頃の方がよかった。これから読む『ディスコ探偵』に期待。
・小学生の同級生のモデルみたいな女子に迫られる。いつの間にか消える。
・そのモデルみたいなの子の彼氏(がいるのだ)のことを好きな「イトウタカコ」という子が登場する。それで、日本中で、「イトウタカコ」という名前の女性が突然次々に死体で発見されるが、なぞは放り出されたまま。
・お姉ちゃんの彼氏が自分を口説くので悩む。ときどき関係を持つ。もっと悩む。あまり解決されず。
・妹が空から来た変な家族にさらわれる。この奪還が小説の主要なモチーフのように見えるが実はそうではないかもしれない。
という感じ。こういうのを一つずつ短編にすればいいのに。『熊の場所』くらいのときは、そうやってたと思うんだけどな。あの頃の方がよかった。これから読む『ディスコ探偵』に期待。