明日まで、東京都美術館で「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-」が開催されていますし、大阪・中之島にある国立国際美術館では7月から同展が開催されますので、大阪での鑑賞を前に、それの予習を兼ねて読みました。
本書の執筆者の森洋子氏は、明治大学名誉教授で、ブリューゲルの研究に関して多くの著作がある研究者です。なお、森氏の主なブリューゲルに関する著作は159ページに掲載してありますので、今後もっと深く知る際の参考になることでしょう。
とはいえ、イタリア・ルネサンスを彩った画家の生涯は、これまで多く紹介されてきましたが、ネーデルラントなどの北方ルネサンスの画家の情報や出版は少ないのが現状です。ブリューゲルの個々の作品は、たまに美術館で観賞することがあるのですが、ブリューゲルの生涯や、画題や画風の変遷、受けた影響などを知らないこともあり、今回の展覧会を契機として、本書のような詳しい解説と作品をテーマ別に詳しく紹介した出版物は理解を大いに助けるものでした。
第3章「聖書の世界 ヒエロニムス・ボスなどの先人画家への挑戦」にまず関心を持ちました。ヒエロニムス・ボスが「あの世の地獄」を描き、ブリューゲルが「この世の地獄」を描いている点が、両画家のもっとも大きな相違だと59ページで指摘されており、そこに関心を持ちました。
この章で掲載されている作品は、シュルレアリスムの祖として紹介されているヒエロニムス・ボス(60ページに有名な『悦楽の園』全体図が小さくではありますが掲載してあります)の作風の影響を受けているのはすぐに理解できました。60ページの見開きのページをその関係性を示すものでした。当時ボスの後継者を目指していたことも知りました。
「悪女フリート(59p)」の豊かな色彩とファンタジーともとれる作風に惹かれました。「反逆天使の転落(64p)」を見ても驚きました。ブリューゲルってこのような作品も描いていたのですね。これらのように寓意を扱った作品が好評だったようで、モティーフのユニークさは見事なものでした。農民画家と呼ばれた作風との大きなギャップにも驚いています。
ブリュッセル時代では、今回の展覧会の目玉作品ともいえる代表作の一つである宗教画「バベルの塔(72p)」を残しています。ローマのコロッセオのイメージを置き換えたと言われており、この作品は細密画としても世界有数の作品です。75ページでは、一部を大きくして掲載していますが、細部を鑑賞するのには難しいほど細かく描かれていました。
ブリューゲルの絵画の特徴を凝縮したような作品群である「ネーデルラントの諺(28p)」が「広場のブリューゲル 諺・祝祭と禁欲・子供」の中で取り上げられていました。「85ブリューゲル 諺、全部解説します」の項目に筆者の研究成果の一端を伺えました。これだけ詳しく調査して解説することの大変さが伝わりました。高名な美術史家による研究の奥深さが伝わる内容です。
「雪中の狩人(120p)」「農民の婚宴(124p)」などの代表作を見ていると農民画家としての作風が実感できます。ブリューゲルと言えば、これらの農民を主題にした作品がまず脳裏に浮かびますので。
また、「十字架を担うキリスト(82p)」や「東方三博士の礼拝(88p)」の宗教画においても、他の画家のモティーフとは異なり、群衆の人々に関心があるのが見てとれました。他の画家の描き方と比較して、より多くの人々が描きこまれていきますので、ブリューゲルの関心のあり方が伺えました。
オールカラーで詳しい解説、ブリューゲルが描いた油絵の全作品の掲載は貴重です。ブリューゲルの啓蒙書の決定版と高く評価しています。
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ブリューゲルの世界 (とんぼの本) 単行本(ソフトカバー) – 2017/4/18
森 洋子
(著)
傑作《バベルの塔》を始めとする油彩画全41点を徹底解説!新知見も盛り込み、世界的研究者が16世紀フランドルの大画家の全貌を語り尽くします。
- 本の長さ159ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2017/4/18
- 寸法16.8 x 1.2 x 21.7 cm
- ISBN-104106022745
- ISBN-13978-4106022746
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2017/4/18)
- 発売日 : 2017/4/18
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 159ページ
- ISBN-10 : 4106022745
- ISBN-13 : 978-4106022746
- 寸法 : 16.8 x 1.2 x 21.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 385,978位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 20,527位アート・建築・デザイン (本)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年5月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今年は24年ぶりにピーテル・ブリューゲルの「バベルの塔」が来日します(4/8~7/2 東京都美術館)。
ということで、「芸術新潮」 2017年5月号は、「バベルの塔の謎」の特集を組んでいます。
レビューしていますから、気になる人は参照してください。
ピーテル・ブリューゲル(1525~1530年頃~1569年9/9)は、ブラバント公国生まれの画家で、
デューラーと並ぶ北方ルネッサンスを代表する画家で、油絵の真筆は41点とそんなに多くありません。
本書は、その全41点を「生涯」「広場の世界」「聖書の世界」「農民の世界」「寓意画の世界」に分類し、
森洋子さんがオール・カラーで解説しています。
また、重要な素描、版画についても適宜図版を提示し、解説を加えています。
ブルーゲルの特徴は、超細密な描写、幻想的な作風にあると思うのですが、
その画風に大友克洋さんが惹かれるのは、当然なのかな、と思います。
「バベルの塔」「ネーデルランドの諺」「謝肉祭と四旬節の喧嘩」「子供の遊戯」「サウルの自殺」「十字架を担うキリスト」・・・
この細密描写は、まさに見る者を圧倒させます!!
ということで、「芸術新潮」 2017年5月号は、「バベルの塔の謎」の特集を組んでいます。
レビューしていますから、気になる人は参照してください。
ピーテル・ブリューゲル(1525~1530年頃~1569年9/9)は、ブラバント公国生まれの画家で、
デューラーと並ぶ北方ルネッサンスを代表する画家で、油絵の真筆は41点とそんなに多くありません。
本書は、その全41点を「生涯」「広場の世界」「聖書の世界」「農民の世界」「寓意画の世界」に分類し、
森洋子さんがオール・カラーで解説しています。
また、重要な素描、版画についても適宜図版を提示し、解説を加えています。
ブルーゲルの特徴は、超細密な描写、幻想的な作風にあると思うのですが、
その画風に大友克洋さんが惹かれるのは、当然なのかな、と思います。
「バベルの塔」「ネーデルランドの諺」「謝肉祭と四旬節の喧嘩」「子供の遊戯」「サウルの自殺」「十字架を担うキリスト」・・・
この細密描写は、まさに見る者を圧倒させます!!
2019年2月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
サイズはA5程度、中身はカラーだが、絵の緻密さと比較してサイズが小さい。
解説本というのが正解な気がする。
解説本というのが正解な気がする。
2017年5月27日に日本でレビュー済み
私の好きなピーテル・ブリューゲルの世界にどっぷりと浸かりたくて、『ブリューゲルの世界』(森洋子著、新潮社・とんぼの本)を手にしましたが、期待を大きく上回る充実ぶりでした。
私が心惹かれるのは、「雪中の狩人」「農民の婚宴」「野外での農民の婚礼の踊り」「農民の踊り」などの農民画です。
16世紀のフランドルの農民たちの営みが生き生きと描き出されています。「ブリューゲルは、農耕の知識をもち、勤勉で誠実に生き、労働に励む農民の姿に人間としての共感を覚えました。・・・そして、同時代の画家たちが関心をもつ、神話の神々、古代史の英雄、キリスト教の殉教者たちではなく、農民を主人公にした絵画に高い芸術性を与えたのです」。
「農民の婚宴」の、婚宴に集まっている大勢の農民たちの相貌がそれぞれ見事に描き分けられているのは、ブリューゲルが勤勉で誠実な生産者である農民一人ひとりに深い関心を抱いていたからでしょう。
「野外での農民の婚礼の踊り」の、踊りまくる農婦の躍動感溢れる逞しいお尻に魅せられ、私も一緒に踊りたくなってしまいました。
私が心惹かれるのは、「雪中の狩人」「農民の婚宴」「野外での農民の婚礼の踊り」「農民の踊り」などの農民画です。
16世紀のフランドルの農民たちの営みが生き生きと描き出されています。「ブリューゲルは、農耕の知識をもち、勤勉で誠実に生き、労働に励む農民の姿に人間としての共感を覚えました。・・・そして、同時代の画家たちが関心をもつ、神話の神々、古代史の英雄、キリスト教の殉教者たちではなく、農民を主人公にした絵画に高い芸術性を与えたのです」。
「農民の婚宴」の、婚宴に集まっている大勢の農民たちの相貌がそれぞれ見事に描き分けられているのは、ブリューゲルが勤勉で誠実な生産者である農民一人ひとりに深い関心を抱いていたからでしょう。
「野外での農民の婚礼の踊り」の、踊りまくる農婦の躍動感溢れる逞しいお尻に魅せられ、私も一緒に踊りたくなってしまいました。
2017年5月28日に日本でレビュー済み
私の場合は、ブリューゲルというと、恥ずかしながら、「雪中の狩人」を中心とする農民画と「バベルの塔」のイメージしかなかったのですが、本書を読んで、その多面的で深い世界を知ることができました。
全作品数が41点とけっして多くないということも、本書を読んで初めて知ったのですが、著者はそれらの作品を、「第1章 アントワープからブリュッセルへ ブリューゲル40数年の軌跡」、「第2章 広場のブリューゲル 諺・祝祭と禁欲・子供」、「第3章 聖書の世界 ヒエロニムス・ボスなど先人画家への挑戦」、「第4章 農民の季節の仕事と楽しみ」、「第5章 ブリューゲルは語る 寓意画の世界」の5章に分けて、ジャンルごとに解説しています。
私自身の浅学のなせる業ですが、ページをめくるごとに「そうだったのか!」と頷きながら本書を読ませていただきました。
1500年代の画家であり、宗教的な意味合いや当時の農村の風俗・習慣やことわざの意味などを踏まえていないとブリューゲルの作品は理解しにくいのですが、そのような現代日本人に知られていない知識が本書では、ふんだんに提供されています。
それは、著者のブリューゲルに関する深い造詣と多くの人にブリューゲルの人生や作品を伝えたいという熱意によるものと思います。本書の「はじめに」の部分で、数年前、芸術新潮の女性編集者から電話があって「ブリューゲルの講義を」という依頼に、十数時間もかけて講義をしたエピソードが書かれていますが、著者は本書においても、労を惜しまず、熱心に詳しく読者に講義してくれています。
いつものとおり、高い写真・印刷技術を誇る「新潮社 とんぼの本」に、このような詳しい、力のこもった解説が付いている珠玉の貴重な解説本です。
とんぼの本にしては文字数が多く、少し読むのに努力が必要ですが、とても良書であり、多くの人にお薦めできる本と思います。
全作品数が41点とけっして多くないということも、本書を読んで初めて知ったのですが、著者はそれらの作品を、「第1章 アントワープからブリュッセルへ ブリューゲル40数年の軌跡」、「第2章 広場のブリューゲル 諺・祝祭と禁欲・子供」、「第3章 聖書の世界 ヒエロニムス・ボスなど先人画家への挑戦」、「第4章 農民の季節の仕事と楽しみ」、「第5章 ブリューゲルは語る 寓意画の世界」の5章に分けて、ジャンルごとに解説しています。
私自身の浅学のなせる業ですが、ページをめくるごとに「そうだったのか!」と頷きながら本書を読ませていただきました。
1500年代の画家であり、宗教的な意味合いや当時の農村の風俗・習慣やことわざの意味などを踏まえていないとブリューゲルの作品は理解しにくいのですが、そのような現代日本人に知られていない知識が本書では、ふんだんに提供されています。
それは、著者のブリューゲルに関する深い造詣と多くの人にブリューゲルの人生や作品を伝えたいという熱意によるものと思います。本書の「はじめに」の部分で、数年前、芸術新潮の女性編集者から電話があって「ブリューゲルの講義を」という依頼に、十数時間もかけて講義をしたエピソードが書かれていますが、著者は本書においても、労を惜しまず、熱心に詳しく読者に講義してくれています。
いつものとおり、高い写真・印刷技術を誇る「新潮社 とんぼの本」に、このような詳しい、力のこもった解説が付いている珠玉の貴重な解説本です。
とんぼの本にしては文字数が多く、少し読むのに努力が必要ですが、とても良書であり、多くの人にお薦めできる本と思います。
2017年11月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ネーデルランドの諺を大きな絵で見たかったのですが、見開きになっていても小さく、また、暗いので虫眼鏡を使ってもよく見えない状態です。書店では見つけられなかった本なので、どういう状態か確認せず注文した私が悪かったのかなとがっかりしています。
2017年5月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
卓上に置いて何時でも手軽、気楽にブリューゲルを愉しめる冊子。