国際連盟は日本史で必ず習うので、その存在を知らないという人はほとんどいないだろう。
しかし、国際連盟について何を知っているかと問われると、アメリカの不参加、日本の常任理事国入り、日本の脱退、経済制裁のみで有効性を欠く違反国対応、ぐらいしか知らない人が多いのではなかろうか。
国際連盟は第二次大戦を止められなかったがゆえに「失敗」とされることも多いが、一方で国際連盟の中では大きく成果を残したものもいろいろある。
本書は、国際連盟の歩んだ道を概説する、ありそうでなかった一般書である。
国際連盟は、さまざまな民間組織の案や、ウィルソン・ハウス構想、スマッツプランなどを元に組み立てられていった。
パリ講和会議では、中国の顧維鈞の熱弁などによる常任理事国+中小国参加の理事会方式や、セルビア代表による一国一票原則明記の主張など、重要な事柄も決まっていくが、日本は立場すら内部統一されておらず、ほとんど発言しない有様だった。
ウィルソンは集団安全保障と領土保全の明記に固執したが、この項目は結局アメリカ不参加の要因ともなる。世界的には侵略国への制裁には意義がない状況だったが、制裁に強制力を持たせることには反対する流れが強かった。
日本は意識も低い中、ヨ-ロッパだけにしないという思惑で不釣り合いな常任理事国入り、大国入りを果たす。数少なく積極的に構想した人種差別撤廃条項が理不尽な取り扱いで廃案にされたことは知っている人もいるだろう(ちなみに、日本人も人種差別している面があるという石橋や吉野の論も引かれているが、そういうことをいうと全員脛に傷のある問題は誰も解決の提起が出来なくなってしまうし、この条項が通ったうえで、なので日本も日本内の人種差別を解決すべきと訴える方が建設的と思うので、やはりこの条項は通った方がよかったと思う)
連盟発足後の動きは、割と知らないことも多かった。
連盟は「参加国は民主的政府が望ましい」という立場をとり、エチオピア加盟時には国内の奴隷制度改善を条件にしたこと、ブラジルが常任理事国入りを求め、これがかなわないと国際連盟脱退をしたこと(スペインも同じ動きをしていたが、政権交代により脱退は取り下げられた)、などは知らなかった。
敗戦国ドイツがすぐに常任理事国入りを果たすことは、今の国際連合(第二次大戦小国がずっと常任理事国を握っている)と比べると寛容さを感じる話である。
連盟に持ち込まれる紛争も色々あり、ヨーロッパが多く、特にポーランドとバルカンがらみが多かったらしい。
国際連盟で難民高等弁務官事務所設置が行われたし、連盟の最大の成果は保健衛生部門と本書では指摘している(日本からは宮島幹之助の貢献)。
伝染病予防や放射線治療の普及、さらにはABO型血液型への統一などもなされている。
人身売買防止、アヘンの取締(この問題では日本も批判された)、図書館・博物館の世界的整備なども進められている。
こうした活動ではアメリカも協力していたし、日本も連盟脱退後も保健衛生部門では協力を続けている。
日本から国際連盟に貢献した人としては、事務次長新渡戸稲造(知的協力国際委員会を立ち上げた。幅広い知識人から信頼されていたという)、理事長石井菊次郎(石井の茶会にも代表される交友と交渉)、足立峰一郎(日本が生んだ最高の外交官とも)、杉村陽太郎、佐藤尚武などが本書では挙げられている。
満州事変で日本は国連脱退するが、当初は国際連盟の足並みは乱れており、上海事変など日本がさらに挑発行動をとったことが各国の対日批判を加速させたという。
イタリアのエチオピア侵攻でも、経済制裁までは踏み込めたものの各国の足並みは乱れ、また石油禁輸には踏み切れず、結局エチオピア併合が完了してしまった暁には制裁も放棄されたため、侵略の既成事実を追認することになってしまった。
日本はリットン報告書の決議後にすぐに脱退してしまったが、
戦前日本のポピュリズム
でも指摘されていたように「報告書には従わないが、何もせずに連盟に居座り続ける」というのは有力な方法たりえただろう。この辺は「言ってることとやってることを一致させないと」という、よく言えば誠実、悪く言えばバカ正直さ(外交では諸外国はもっとふてぶてしい)が現れている気がする。
国際連盟のあまり知られていない歴史をコンパクトにまとめてくれていて、非常に有難い。
戦間期の政治を見る上でも欠かせない一冊だろう。
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国際連盟 (中公新書 2055) 新書 – 2010/5/25
篠原 初枝
(著)
- ISBN-104121020553
- ISBN-13978-4121020550
- 出版社中央公論新社
- 発売日2010/5/25
- 言語日本語
- 本の長さ296ページ
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2010/5/25)
- 発売日 : 2010/5/25
- 言語 : 日本語
- 新書 : 296ページ
- ISBN-10 : 4121020553
- ISBN-13 : 978-4121020550
- Amazon 売れ筋ランキング: - 160,266位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年11月30日に日本でレビュー済み
著者いわく、「国際連盟に関する本は戦後になかった」のだそうだ。
新書ではあるが、結構質量のある本ではあった。
今でこそ「失敗した」という言辞が多勢ではあろうが、今の国際連合の基礎を作ったのは、他ならぬ国際連盟である。かつ領土紛争も一部解決を図ることができたことも(ギリシャ・イタリア戦争)も付記しておく。
とはいえ、常任理事国であったドイツ・日本・イタリアが次々と脱退したことは、まごう事無き事実である。所謂日華事変勃発によって日本は脱退する。リットン調査団の内容によっても、日本の皇位は国際法違反であるとされている。まずなにより、当時の中華民国が政局は荒れ果てているとは云え、国際連盟に加盟している主権国家であったことを付記しておく。
またこのときの国際連盟による日本の連盟規約違反であることの認定が、極東軍事裁判の判断材料の一つとなる。
また非政治分野の活動が顕著であったのも事実である。
伝染病や難民支援などで、多数の人間が助かったのもまた事実である。
ちなみに世界統一的なABO型血液型の概念が造られたのも、国際連盟保健部の功績の一つである。これを考えれば、国際連盟がより身近になるのではないだろうか?
以前読んだ「国際政治」では、「(国際連盟は)あれほど現実と乖離した組織を見たことがない。」と書いてあったが、本当なのだろうか。実際は喧々諤々の議論があったように思う。今は国際連合が一応機能はしているものの、国際連盟のような結果を招かないとも限らない。決して過去の出来事ではないであろうと思った次第である。
新書ではあるが、結構質量のある本ではあった。
今でこそ「失敗した」という言辞が多勢ではあろうが、今の国際連合の基礎を作ったのは、他ならぬ国際連盟である。かつ領土紛争も一部解決を図ることができたことも(ギリシャ・イタリア戦争)も付記しておく。
とはいえ、常任理事国であったドイツ・日本・イタリアが次々と脱退したことは、まごう事無き事実である。所謂日華事変勃発によって日本は脱退する。リットン調査団の内容によっても、日本の皇位は国際法違反であるとされている。まずなにより、当時の中華民国が政局は荒れ果てているとは云え、国際連盟に加盟している主権国家であったことを付記しておく。
またこのときの国際連盟による日本の連盟規約違反であることの認定が、極東軍事裁判の判断材料の一つとなる。
また非政治分野の活動が顕著であったのも事実である。
伝染病や難民支援などで、多数の人間が助かったのもまた事実である。
ちなみに世界統一的なABO型血液型の概念が造られたのも、国際連盟保健部の功績の一つである。これを考えれば、国際連盟がより身近になるのではないだろうか?
以前読んだ「国際政治」では、「(国際連盟は)あれほど現実と乖離した組織を見たことがない。」と書いてあったが、本当なのだろうか。実際は喧々諤々の議論があったように思う。今は国際連合が一応機能はしているものの、国際連盟のような結果を招かないとも限らない。決して過去の出来事ではないであろうと思った次第である。
2010年6月22日に日本でレビュー済み
本書は国際連盟のあらましを紹介するとともに、第二次大戦のために日本では「失敗した」と見なされがちな連盟の、再評価を試みた意欲的な本だ。日本史の中で国際連盟というと、リットン調査団と松岡洋右の満州国問題で一瞬登場して消えてしまう。ヨーロッパの紛争処理が主眼となっていたために、日本では影が薄いが、国際援助や国際組織による紛争処理が手探りで行われた初めての場だった。また、日本も常任理事国として外交官にとどまらず、新渡戸稲造、柳田国男など多くの人材を連盟に派遣し、活躍したことが語られている。
合意形成やアメリカ離脱などやむを得ないのだが、発足までの経緯が込み入っていて理解しづらい。しかし、本来の外交のほか、難民問題、公衆衛生、文化活動など多方面で連盟が活動し、20年代の平和共存路線で脇役ながら大きな役割を果たしたこと、第二次大戦中もスイスから米大陸に移転しながらかろうじて生きながらえ、3代目の事務総長の任期は最後の1日だけだったことなど、本書で初めて知るところは多かった。
教科書的な記述にとどまらず、リットン調査団の晩餐メニューや、当時の対話、多すぎない程度の登場人物の証言引用など、ほどよく文章の柔らかみもあり、読み物としても興味深く読める。国際連盟の現代につながる意義、連盟活動における多くの成功など、現代の中心になりつつある多国間外交の源流を見る思いがした。
合意形成やアメリカ離脱などやむを得ないのだが、発足までの経緯が込み入っていて理解しづらい。しかし、本来の外交のほか、難民問題、公衆衛生、文化活動など多方面で連盟が活動し、20年代の平和共存路線で脇役ながら大きな役割を果たしたこと、第二次大戦中もスイスから米大陸に移転しながらかろうじて生きながらえ、3代目の事務総長の任期は最後の1日だけだったことなど、本書で初めて知るところは多かった。
教科書的な記述にとどまらず、リットン調査団の晩餐メニューや、当時の対話、多すぎない程度の登場人物の証言引用など、ほどよく文章の柔らかみもあり、読み物としても興味深く読める。国際連盟の現代につながる意義、連盟活動における多くの成功など、現代の中心になりつつある多国間外交の源流を見る思いがした。
2010年6月20日に日本でレビュー済み
第一次大戦という人類が遭遇したかつてない事態に対し、主権国家のレベルをこえた世界平和への試みが一つの形に結実した。それが国際連盟である。一定の理念を具体化しつつも、いくつかの欠点をはらみ、第一次大戦後の世界秩序を破ろうとする力を抑えることは出来ず、第二次世界大戦へと世界は突っ切ってしまう。その意味では、その試みは不十分であったと言わざるを得ない。
しかしその経緯を振り返り、学ぶことは今後の教訓を得る上で有意義といえよう。特に冷戦終結後、民族・宗教問題の火が各地で吹き荒れる今日、主権国家を越える試みの重要性は当時と非常に似ており、またその深刻さは高まっている。
必ずしも目新しいテーマとはいえないが、中公新書らしく質実剛健に手堅くまとめている。特に当時の日本人の関わりについても記述もなされている。
しかしその経緯を振り返り、学ぶことは今後の教訓を得る上で有意義といえよう。特に冷戦終結後、民族・宗教問題の火が各地で吹き荒れる今日、主権国家を越える試みの重要性は当時と非常に似ており、またその深刻さは高まっている。
必ずしも目新しいテーマとはいえないが、中公新書らしく質実剛健に手堅くまとめている。特に当時の日本人の関わりについても記述もなされている。
2010年6月25日に日本でレビュー済み
国際連盟と言えば、日本人にとっては満州事変から松岡洋右による脱退、そして十分な機能を発揮しきれないまま第二次世界大戦を迎えるというイメージが強い。しかしながら、本書を通じて、いかに多国間外交が繰り広げられたか、その中で日本及び日本人がどのような役割を果たしていたか、といった点について、改めて認識させられた。いわゆる戦間期の国際社会の取り組み、また、わが国が満州事変などを引き起こす一方で国際的な諸課題についてどのように多国間外交に取り組んだかが新書の形でコンパクトに整理されている。この時期にご関心のある向きにはお勧めしたい一書。