大学生時代に読んだ。
戦後の歴史を規定したのは、占領期なのではないかと思い、吉田茂を勉強した。
それで、最初に出会ったのが本書であった。
まずは良い所から。
著者の三浦氏は学者にしては珍しく、文才がある。文章が生き生きしていて読みやすい。
章や節のタイトルの付け方を見ても、センスを感じるし、物語の展開が絶妙だから、
まるで映画を観ているようなような感覚で楽しめる。
それでいて、史料に基づいているので現実味がある。
また、アメリカ側の外交史料の翻訳が上手い。
読書が好きであれば、歴史に興味なくても余裕で読破できると思う。
ただし、気を付けなければならないのは、その偏向性である。
本書のイデオロギー的色彩を理解した上で読まないと、読者は煽動されてしまう。
戦後史の知識が無い人がこれを読むと、きっと吉田が大嫌いになるだろう。
実際、私もそうなった。
その後、どいう巡り合わせか、
片岡徹也『日本永久占領(さらば吉田茂)』(1999)や何も知らずに、
豊下楢彦『安保条約の成立』(1996)を読んでしまったものだから、
すっかり、彼らに影響されてしまった。
本書は、90年代の政治停滞に不満を持った人々に向けた本である。
「まえがき」を読むとよく分かる。目の付けどころが鋭いし、私も同感だ。
室山義正『日米安保体制』(1992)も同じ文脈で上梓された研究である。
でも、これらの議論は反動が過ぎて、占領期の日本政府の外交的限界を無視している。
だから、吉田の評価はボロクソである。
いまだに高坂正堯『宰相吉田茂』(1968)が産み出した吉田神話に陶酔している人がいるならば、
是非、一読をお薦めしたい。きっと目が覚めるであろう。
(ちなみに、この時期の外交史としては、
坂元一哉『日米同盟の絆』[2000]が手堅い研究書とされている。)
それにしても、つくづく思うのは、戦後日本が独立して60年以上経つのに、
我々がまだ吉田にこだわっているという現実である。
今でも毎年、吉田に関する本が出版され続けている(そういえば最近、白洲次郎ブームもあった)。
いい加減、もう「吉田はこうだった」とか「いや、ああだった」とか女々しい議論は止めにして、
生産的な話を進めて欲しいものだ。
きっと、吉田が現代に降り立ったら、「ゲッ、お前らまだ安保やってんのかよ!!」
と、腰を抜かすだろうと思う。
最後に。著者が本書をモチーフに小説を書いて欲しい。
三浦氏には、城山三郎や児島譲に並ぶ歴史作家の素質があるはずだ。
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吉田茂とサンフランシスコ講和 上巻 単行本 – 1996/9/1
三浦 陽一
(著)
- 本の長さ253ページ
- 言語日本語
- 出版社大月書店
- 発売日1996/9/1
- ISBN-104272520474
- ISBN-13978-4272520473
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
戦後日本の繁栄をきずいた宰相吉田茂の伝説を丹念に洗い直し日本の独立にいたる複雑なプロセスを生き生きと書き上げた問題作。膨大な資料収集と緻密な史料分析により講和をめぐる多彩な人間模様と複雑な国際関係を解明。
登録情報
- 出版社 : 大月書店 (1996/9/1)
- 発売日 : 1996/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 253ページ
- ISBN-10 : 4272520474
- ISBN-13 : 978-4272520473
- Amazon 売れ筋ランキング: - 868,685位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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