とてもおもしろい本でした。英語民間試験の導入を延期に追い込んだ三人の若者たちの記録でもあり、鳥飼氏からの彼ら若い世代へのエールでもあるような本です。鳥飼氏は面と向かって批判はしていませんが、こんな混乱を招いてしまった関係者・関係団体の名前もきっちり出しています。
反省しなければならないのは「大人」です。
3人のうち、当時高校生だった若者の1人は次のように述べています。
「これ呪文みたいだよなっていうふうな。…『また四技能って言っているよ』みたいな。…みんながその言葉の意味をちゃんとわかって使っているみたいに言ってるけど、それ、そんな風に連呼して大丈夫なの?みたいな。何かそういう感覚があって。その言葉自体を使うこと自体に意味があるみたいな言葉があるなっていうふうに思って。」
この発言からわかるのは、高校生でも「わかっちゃう」ということです。
「民間試験導入」「e-ポートフォリオ」。一昔前なら「生きていく力」、最近では「思考力・判断力・表現力」や「主体的で対話的な深い学び」…。
文科省はこのような「呪文」が大好きです。そして、それに乗っかる御用学者を必ず呼んできます。理念はなんとなくわかります(「なんとなくわかる」で済ませている私のような人間も「大人」の側です)。でも文科省には、提案する以上、それを実現する確かな「ルートマップ」も同時に提示してもらいたい。抽象的な言葉ではなく、確実に一歩ずつ進むことのできる現実的な具体案と共に。
3人のうち、大学生だった若者は、今回の反対運動を経て、次のように言います。
「いろいろなことを聞くにつけ、こう言ったらちょっとあれですけど、あまりにもいろんなことの質が落ちていると思うんですよね。」
20年ほどしか生きていない若者に、このように喝破されてしまう日本の世の中ってどうなのよ?と、大人の1人として情けなくなります。
ここ10年近く、文科省の混乱ぶりは、目に余るものがあります。
もう1人の高校生との対談の中で「出る杭は打たれる文化」という言葉が出てきて、鳥飼氏は日本人の「同調圧力」についても言及します。その是非は論じていませんが、昨今の教育行政を見ていると、「反対する者はいないのか」と言いたくなります。
きっと本質をわかっている官僚はいるはずですが(本書の中にも、真っ当な意見を述べてていた複数の官僚の名前が登場していました)、実際には、多くの官僚が同調圧力に負けて何も言えない、あるいは心ある官僚は担当から「外されている」ということでしょう。
もしそういう状態になっているとすれば、反対運動を行った大学生の「あまりにもいろんなことの質が落ちていると思うんですよね」という言葉が、行政組織にもそのまま当てはまることになります。少なくとも、外からそう思われても仕方がない。
決してオーバーではなく、今回はこの勇気ある3人と、彼らとともに闘った人々によって日本の英語教育は「最悪」を免れたと思います。(皮肉なことに、いちばんそれに貢献したのは、萩生田大臣の「身の丈」発言ではありますが)
まったく、我々大人が反省しなければなりません。大人にとっては、そのことに気づかせてくれる本です。
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10代と語る英語教育 ――民間試験導入延期までの道のり (ちくまプリマー新書) 新書 – 2020/8/7
鳥飼 玖美子
(著)
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SNSや国会前でのデモなど、英語民間試験導入延期に大きな役割を担った三人に取材し、大学入試改革とは何か、英語教育はどうあるべきなのかを紐解く。
- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2020/8/7
- 寸法10.7 x 1.6 x 17.3 cm
- ISBN-104480683844
- ISBN-13978-4480683847
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2020/8/7)
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- 言語 : 日本語
- 新書 : 320ページ
- ISBN-10 : 4480683844
- ISBN-13 : 978-4480683847
- 寸法 : 10.7 x 1.6 x 17.3 cm
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- - 1,097位学校教育ノンフィクション
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2022年10月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本の英語教育の迷走に何とか歯止めをかけたいと頑張っておられる鳥飼さんの
心根が現れたような本ですね。
大学入試改革の民間試験導入延期に思わずホッと胸をなでおろしつつ、
その「功労者」となった若者とのインタビュー内容を取り込むことで、
彼らの見ている日本を浮き彫りにすると共に、大人としての責任を痛感しながら、
まだまだ終わらない自らの戦争(私は、英語教育全般に関する文科省との戦争と思っています!!)
への意気込みを語っているように映りました。
副題は良しとして、タイトルと内容には少しズレ、あるいは切込みの甘さがあるように思いますが、
インタビューで若者が語ってくれた内容自体はなかなか興味深く、
彼らの捉えている今の日本の政治や行政への「落胆」みたいなものが滲み出ていて、
心に突き刺さります。
また、民間試験導入延期に至る直近でのマスコミ、政治、行政の動きが
当事者のリアルも織り交ぜられることによって立体的に描かれており、
世の中がどのように動いているのかのからくりを知るのにも役立ちました。
多分ですが、鳥飼さんとしては長期的スパンでの副題(民間試験導入延期までの道のり)の方も
大いに伝えたかった内容ですから、結果的にこういう本の作りになったのだとは理解します。
それにしても根深いですね。文科省の政治への忖度。
特に、文科省の担当者たちには「専門家」として理念と矜持をしっかり持って、
日本の将来のために教育政策立案、教育問題解決にもっと真剣に取り組んでもらいたいと
つくづく思います。
心根が現れたような本ですね。
大学入試改革の民間試験導入延期に思わずホッと胸をなでおろしつつ、
その「功労者」となった若者とのインタビュー内容を取り込むことで、
彼らの見ている日本を浮き彫りにすると共に、大人としての責任を痛感しながら、
まだまだ終わらない自らの戦争(私は、英語教育全般に関する文科省との戦争と思っています!!)
への意気込みを語っているように映りました。
副題は良しとして、タイトルと内容には少しズレ、あるいは切込みの甘さがあるように思いますが、
インタビューで若者が語ってくれた内容自体はなかなか興味深く、
彼らの捉えている今の日本の政治や行政への「落胆」みたいなものが滲み出ていて、
心に突き刺さります。
また、民間試験導入延期に至る直近でのマスコミ、政治、行政の動きが
当事者のリアルも織り交ぜられることによって立体的に描かれており、
世の中がどのように動いているのかのからくりを知るのにも役立ちました。
多分ですが、鳥飼さんとしては長期的スパンでの副題(民間試験導入延期までの道のり)の方も
大いに伝えたかった内容ですから、結果的にこういう本の作りになったのだとは理解します。
それにしても根深いですね。文科省の政治への忖度。
特に、文科省の担当者たちには「専門家」として理念と矜持をしっかり持って、
日本の将来のために教育政策立案、教育問題解決にもっと真剣に取り組んでもらいたいと
つくづく思います。
2021年9月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
民間試験導入に振り回されたのは都会の学生だけでない。むしろ彼らは得をする。片道2時間以上かけて試験会場に向かわないといけなかったかもしれない片田舎の学生もいる。地方教育環境のことも取り入れてほしかった。
2020年8月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書はタイトルから察すると「”英語教育” かくあるべき論」のような印象を受けるが、じっさいは違う。
大学入試への民間試験導入の延期に至るまでの3人の若者の抗議活動を振り返り、行政に働きかける勇気と知恵、ひいては本当の教育の大切さをあぶり出す内容といえる。
皮肉に言うなら、2人の高校生と1人の大学生が「文科省ご推奨の『主体的で深い学びにもとづく思考力と判断力、表現力』」を活用し、「文科省が暴走する『主体的で深い学びにもとづく思考力と判断力、表現力、を実現するための民間試験、記述式の導入』」を阻止した、ホンモノの批判的思考と主体的行動に、鳥飼氏の主張を織り交ぜながら紹介する内容である。
文科相による「サイレント・マジョリティ」発言、「身の丈」発言、というホンネ(というか分別教養のなさ)への糾弾に3人の若者が立ち上がる。 はじめはまったく劣勢だったが、マスコミの荷担を誘い込み政治が音を立てて動かされてゆく。 その様は、たしかに「主体的に深く学び、批判的に考え判断し抗議(表現)する重要性」を物語っている。
3人とも、政治に興味のないデジタルネイティブ・SNS世代である(とはいっても教養書や新聞は相当に読んでいるらしい)。 政治への諦念観もあったようだが結局は、そのSNSの活用で結果を導いた。 疑問を疑問のまま終わらせず発信し続けたことで、当事者意識を周囲に拡大、反対勢力を構築し政治を動かすに至った。 ということは、文科省の唱える「主体的に~、批判的に~」いぜんに、「『危機感』への感度の高さ」こそが教育に求められる重要なファクターなのではないか。 もしかすると「危機感」こそが学習指導要領が目指す究極の3文字では…、と考えながら読了した。
3人のインタビュー内容が、随所にほぼ ”まま” 引用されており冗長さを感じるが、その辺はうまく読み流せばいい。 それで鳥飼氏の教育への主張が透けて見えてくる。
新しい学習指導要領が目指すこととは何か。 その要領の長ったらしい ”込み込み” の表現から本質を抽出するなら、「主体性」と言えると思う。 しかし、その主体性をともない主張・表現する人間が育ったとして日本社会はそれを本当に受け入れて反応する覚悟があるのだろうか(P258)…、との鳥飼氏の問題提起は正鵠を得ている。 要は、教育だけが、もっというなら、文科省だけが声高に主体性を強調しても、社会全体がその目的と価値観を共有しなければ、教育は (に) 生かされないと気づいた(いわゆる部分最適のワナ)。 その覚悟が日本全体に行き渡らないかぎり、残念ながら教育行政の迷走は終わりそうにない。
終章「大学入試はどうあるべきなのか」では、”こうあるべき”との答えは書かれていない。 しかし終章で整理される有識者検討会議の内容は、私たちに少なくない気づきを与えている。
まずは、入試英語への民間試験導入制度の設計不備の原因だ。 さまざまな議論があったが、要は「学習指導要領と民間試験との整合性の検証、検討が拙速だった)だけのハナシではなかったか。 その非現実性に、経済格差や地域格差への懸念が一気呵成に反対勢力を築いた結果の制度破綻、と読める。
その ”ナゼ” を突き詰めてゆくと、学習指導要領の意義への疑問にたどり着く。 今回の民間試験導入延期が浮き彫りにしたのは、”学習指導要領の杓子定規で過剰な網羅性” と言っても過言ではない。 それは、あまりに ”いいとこどり満載の非現実的な良い子” 像に思えてならない。 そんなに詰め込んで、現場で実現できるの?…ということだ。 ”ゆとり” を横目で見ながら、お題目だけは「均一料金 x 詰め放題」といった体裁づくり…、いかにも官僚的と言わざるを得ない。 現場目線、当事者目線が感じられない狭隘な思考に囚われる文科省こそ、主体的で深い学びにより自主的な批判精神をもって危機感を持つべきではないか。 さもなくば早晩、教育界が破綻する不安は否めない(本書に登場する3人の若者も、そういう危機感をリアルにもっている)。
”全員にすべてを最低限、公平に”、という学習指導要領の理念に対し、”ある能力に特化し個性的な設計で他と差異化を図る” 既存の民間試験が同一線上にないのは自明であろう。 それを公教育、ましてや大学入試に取り入れるなど、単純に考えてもおかしい。 文科省が、現場からのフィードバックをようやく受け入れながら方針是正する現実……そこから何が見えてくるか……。
私感を承知で言うなら、公教育は(国民の権利として)必要だが、一方、それを教育行政に全方位的に一任する必要はないのでは、と思う。 一定の制約の下、現在の公教育を (も) 民間に任せる柔軟性があっていいのではないか。 それを個々人の自由にしてもいいのではないか。 学習指導要領という、ある意味、強制性をともなったステレオタイプな枠組みが高校まで12年間も続く事態を迂回する自由があってもよいのではないか。 民間との協働はいいと思う。 それこそ、文科省の謳う ”多様な”教育観に貢献するだろうから。 しかし、その地盤が固まらないうちに民間利用を唐突に大学入試から組み込もうとするから、障壁や格差問題が顕在化してしまうのだと考える。
国の迷走から逃れる手段としての「教育の自由」の必要性。 そんなことを考えながら読了した。 主観先走りのレビューとなり申しわけないが、それだけ考えさせられる本書の内容ですね~、と言い訳をしておきたい。
大学入試への民間試験導入の延期に至るまでの3人の若者の抗議活動を振り返り、行政に働きかける勇気と知恵、ひいては本当の教育の大切さをあぶり出す内容といえる。
皮肉に言うなら、2人の高校生と1人の大学生が「文科省ご推奨の『主体的で深い学びにもとづく思考力と判断力、表現力』」を活用し、「文科省が暴走する『主体的で深い学びにもとづく思考力と判断力、表現力、を実現するための民間試験、記述式の導入』」を阻止した、ホンモノの批判的思考と主体的行動に、鳥飼氏の主張を織り交ぜながら紹介する内容である。
文科相による「サイレント・マジョリティ」発言、「身の丈」発言、というホンネ(というか分別教養のなさ)への糾弾に3人の若者が立ち上がる。 はじめはまったく劣勢だったが、マスコミの荷担を誘い込み政治が音を立てて動かされてゆく。 その様は、たしかに「主体的に深く学び、批判的に考え判断し抗議(表現)する重要性」を物語っている。
3人とも、政治に興味のないデジタルネイティブ・SNS世代である(とはいっても教養書や新聞は相当に読んでいるらしい)。 政治への諦念観もあったようだが結局は、そのSNSの活用で結果を導いた。 疑問を疑問のまま終わらせず発信し続けたことで、当事者意識を周囲に拡大、反対勢力を構築し政治を動かすに至った。 ということは、文科省の唱える「主体的に~、批判的に~」いぜんに、「『危機感』への感度の高さ」こそが教育に求められる重要なファクターなのではないか。 もしかすると「危機感」こそが学習指導要領が目指す究極の3文字では…、と考えながら読了した。
3人のインタビュー内容が、随所にほぼ ”まま” 引用されており冗長さを感じるが、その辺はうまく読み流せばいい。 それで鳥飼氏の教育への主張が透けて見えてくる。
新しい学習指導要領が目指すこととは何か。 その要領の長ったらしい ”込み込み” の表現から本質を抽出するなら、「主体性」と言えると思う。 しかし、その主体性をともない主張・表現する人間が育ったとして日本社会はそれを本当に受け入れて反応する覚悟があるのだろうか(P258)…、との鳥飼氏の問題提起は正鵠を得ている。 要は、教育だけが、もっというなら、文科省だけが声高に主体性を強調しても、社会全体がその目的と価値観を共有しなければ、教育は (に) 生かされないと気づいた(いわゆる部分最適のワナ)。 その覚悟が日本全体に行き渡らないかぎり、残念ながら教育行政の迷走は終わりそうにない。
終章「大学入試はどうあるべきなのか」では、”こうあるべき”との答えは書かれていない。 しかし終章で整理される有識者検討会議の内容は、私たちに少なくない気づきを与えている。
まずは、入試英語への民間試験導入制度の設計不備の原因だ。 さまざまな議論があったが、要は「学習指導要領と民間試験との整合性の検証、検討が拙速だった)だけのハナシではなかったか。 その非現実性に、経済格差や地域格差への懸念が一気呵成に反対勢力を築いた結果の制度破綻、と読める。
その ”ナゼ” を突き詰めてゆくと、学習指導要領の意義への疑問にたどり着く。 今回の民間試験導入延期が浮き彫りにしたのは、”学習指導要領の杓子定規で過剰な網羅性” と言っても過言ではない。 それは、あまりに ”いいとこどり満載の非現実的な良い子” 像に思えてならない。 そんなに詰め込んで、現場で実現できるの?…ということだ。 ”ゆとり” を横目で見ながら、お題目だけは「均一料金 x 詰め放題」といった体裁づくり…、いかにも官僚的と言わざるを得ない。 現場目線、当事者目線が感じられない狭隘な思考に囚われる文科省こそ、主体的で深い学びにより自主的な批判精神をもって危機感を持つべきではないか。 さもなくば早晩、教育界が破綻する不安は否めない(本書に登場する3人の若者も、そういう危機感をリアルにもっている)。
”全員にすべてを最低限、公平に”、という学習指導要領の理念に対し、”ある能力に特化し個性的な設計で他と差異化を図る” 既存の民間試験が同一線上にないのは自明であろう。 それを公教育、ましてや大学入試に取り入れるなど、単純に考えてもおかしい。 文科省が、現場からのフィードバックをようやく受け入れながら方針是正する現実……そこから何が見えてくるか……。
私感を承知で言うなら、公教育は(国民の権利として)必要だが、一方、それを教育行政に全方位的に一任する必要はないのでは、と思う。 一定の制約の下、現在の公教育を (も) 民間に任せる柔軟性があっていいのではないか。 それを個々人の自由にしてもいいのではないか。 学習指導要領という、ある意味、強制性をともなったステレオタイプな枠組みが高校まで12年間も続く事態を迂回する自由があってもよいのではないか。 民間との協働はいいと思う。 それこそ、文科省の謳う ”多様な”教育観に貢献するだろうから。 しかし、その地盤が固まらないうちに民間利用を唐突に大学入試から組み込もうとするから、障壁や格差問題が顕在化してしまうのだと考える。
国の迷走から逃れる手段としての「教育の自由」の必要性。 そんなことを考えながら読了した。 主観先走りのレビューとなり申しわけないが、それだけ考えさせられる本書の内容ですね~、と言い訳をしておきたい。