25人の研究者による分担執筆で、統一テーマ「〈異郷〉としての大連・上海・台北」の元、包括的な座談会と個別の文化人を捉えての〈異郷〉のあり方を丁寧に捉えていた啓蒙書であり、専門書でした。
戦前の日本に関する政治史は多くの論考が存在していますし、それに関連して、経済史、外交史なども記されてきました。
本書は〈異郷〉を訪れその異文化体験を通して、そこから日本を見つめ直した当時の文化人の行動と視点と、そこに存在していた日本人に焦点を当てた社会文化史の本でしたので新鮮に映りました。各執筆者の論点は多岐にわたり、取り上げた人物も様々な分野で活躍している人物でした。
本来なら個別細分化されていく論考ですが、「〈異郷〉としての大連・上海・台北」というテーマに沿ってしっかりと書かれてあるので、広がりこそ感じましたが、よく統一がとれた内容だったと思いました。
各分野の研究者が執筆していますので、内容は深く専門的ですが、写真も多く配置され、一般人にも読めるように文章も比較的平易に書かれていました。この時代の大連・上海・台北を知る上での良書の刊行だと高く評価いたします。
専門書が売れない時代に、このような有意義な出版を行っている勉誠出版の発行する書籍の質の高さにあらためて感心しました。
428ページのあとがきに、編者の東洋大学文学部教授の和田博文氏は「本書は、大連・上海・台北という、中国と台湾の都市を舞台に、19世紀後半から20世紀前半の日本人の「自己」と「他者」をめぐる旅を追いかけている。日本が帝国を目指して東アジアに進出した時代に、〈故郷〉と〈異郷〉という問題系は、植民者の第1世代・第2世代に前景化した。第1章の座談会では3つの都市の共通項と固有性を視野に収めながら、在留日本人の歴史を明らかにしている。第2章~第4章では、文化諸領域を横断する形で、日本人の都市体験と、反芻される記憶の行方を論じている。」と述べていました。
この文が本書の性格を表し、説明しやすいと思い引用いたしました。
巻頭の座談会「〈異郷〉としての大連・上海・台北」での43ページという分量の多さにも驚きました。和田博文・横路啓子・小泉京美各氏の鼎談の形式で、そこに生活している日本人の往時の姿を克明に論じていました。現代にいながら、1世紀ほどタイムスリップしたかのように生き生きと話題が展開する様は門外漢には驚きをもって受け止めました。研究者の知識の蓄積の凄さを見る思いです。
第2章以下は実に魅力的な人物を取り上げ、その〈異郷〉での行動などを丁寧に分析して紹介してありました。本書が当時の知識人の異文化交流を捉えているのを補い、庶民の社会を包括的に論じているのが印象に残りました。
どれもが魅力的な論考になっていますが、門外漢である当方の読み取りに限界があるため、少しだけの紹介に留めます。
例えば、266ページからの有澤晶子氏の「川喜多長政―映画に生きたコスモポリタンの人」では、川喜多長政の生涯を簡単に紹介し、映画『新しき土』を作る意図と反響を紹介してありました。DVDが2009年に発売されていることをこの論文で知りましたが、この作品上映後、上海での激しい拒否反応を知るにつけ戦前の文化政策の難しさが伝わってきます。伊丹万作監督、早川雪舟、原節子などの名前が掲載してあるポスターに惹かれました。
ラストに書かれていましたが、中華電影の存在は満映と同じように扱われているようですが、そこでの映画製作に込められた川喜多長政の真意が理解される日を待ち望んでいます。
また、石川隆男氏の「北原白秋―国境の地に立つ詩人白秋」も興味を覚えました。「当時の樺太、満洲、台湾、小笠原の地に足跡を残したのは事実である。渡航理由が何であれ四方全ての外地を訪れた者は、文壇、誌壇広しと言えども白秋をおいているだろうか。」と述べてありました。それは知りませんでした。
まず白秋の代表作の一つである『思ひ出』を取り上げ、白秋の神秘的なものに対する関心の深さを例証し、〈異郷〉に対する鮮烈な思いを論じています。349ページの台湾旅行時での高砂族の衣装を身にまとった白秋を初めて見ました。ただし「寧ろ愚痴っぽい旅行記」になったようですが、「異郷台湾を訪れたことで、異郷の空気や人に触れ、それまでの思いが吹っ切れた開放感を味わったと言えるのである。」という筆者のまとめが救いでした。
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〈異郷〉としての大連・上海・台北 単行本 – 2015/3/31
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〈異郷〉である東アジアの都市で日本人は「自己」と「他者」をどのように捉えたのか
中国大陸部を代表する港湾都市である大連と上海、台湾最大の都市・台北に焦点を当て、19世紀後半~20世紀前半の「外地」における都市体験を考察。
日本人の異文化体験・交流から、政治史、経済史、外交史からは見えない新しい歴史から、「故郷」とは何か、「日本」とは何か、「日本人」とは何かを探る。
中国大陸部を代表する港湾都市である大連と上海、台湾最大の都市・台北に焦点を当て、19世紀後半~20世紀前半の「外地」における都市体験を考察。
日本人の異文化体験・交流から、政治史、経済史、外交史からは見えない新しい歴史から、「故郷」とは何か、「日本」とは何か、「日本人」とは何かを探る。
- 本の長さ432ページ
- 言語日本語
- 出版社勉誠出版
- 発売日2015/3/31
- ISBN-104585220976
- ISBN-13978-4585220978
商品の説明
著者について
和田博文(わだ・ひろふみ)
東洋大学文学部教授。神戸大学大学院文化学研究科博士課程中退。専門は、文化学・日本近代文学。
主な著書に、『シベリア鉄道紀行史』(筑摩選書、2013年、交通図書賞歴史部門受賞)、『資生堂という文化装置 1872-1945』(岩波書店、2011年)、『飛行の夢 1783-1945』(藤原書店、2005年)などがある。
黃翠娥(こう・すいが)
輔仁大学外国語学部日本語文学科教授。東北大学大学院文学研究科博士課程中退。専門は、日本近代文学。
主な著書に、『川端文芸の世界』(豪峰出版、2000年)、 『日本近現代文学と中国』(致良出版、2010年)などがある。
東洋大学文学部教授。神戸大学大学院文化学研究科博士課程中退。専門は、文化学・日本近代文学。
主な著書に、『シベリア鉄道紀行史』(筑摩選書、2013年、交通図書賞歴史部門受賞)、『資生堂という文化装置 1872-1945』(岩波書店、2011年)、『飛行の夢 1783-1945』(藤原書店、2005年)などがある。
黃翠娥(こう・すいが)
輔仁大学外国語学部日本語文学科教授。東北大学大学院文学研究科博士課程中退。専門は、日本近代文学。
主な著書に、『川端文芸の世界』(豪峰出版、2000年)、 『日本近現代文学と中国』(致良出版、2010年)などがある。
登録情報
- 出版社 : 勉誠出版 (2015/3/31)
- 発売日 : 2015/3/31
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 432ページ
- ISBN-10 : 4585220976
- ISBN-13 : 978-4585220978
- Amazon 売れ筋ランキング: - 374,063位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 127位文学史
- - 68,073位ノンフィクション (本)
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