本書は、主に明治以前に日本人が作り、使っていた「機械」に注目し、それらの文献や図絵を集めて調べ上げた労作です。
登場するのは、水車、ろくろ、起重機、絞車、揚水水車、荷車、フイゴ、ポンプ、はかり、はねつるべ、しぼり器、弓、からくり、等々。
主に木造構造物です。現代人の感覚からすると「機械」というよりは「仕掛け」とか「道具」と呼びたくなるものが多いでしょうか。
法政大学出版局の「ものと人間の文化史」シリーズならではの一冊です。
仕事の関係で、水車などの歴史を調べたことがあるのですが、日本の文献調査はもっぱら「文系」的な観点からなされていて、こうした機械・機構に注目したものは少なく、がっかりしたことがあります。
機械や機構は、その時代における人々の暮らしや科学的進歩、しいては自然観、宇宙観と深い関わりがありますから、文学と同様に大いに研究するべき対象です。
素人にとっては、機械や機構についてどういう文献が存在し、どうしたらその文献を見たり調べたりできるのか、わからないことだらけ。出典がしっかり明記されている本書のような存在は、ありがたい限りです。
日本には、機械、建築、農業、薬品、自然災害(地震、火山噴火、津波)などについても、案外たくさんの文献や図絵が残されています。「ものと人間の文化史」シリーズには、こうした「理工系」ジャンルについてもぜひ調査、集成を進めていってほしいものです。
測量、土木工事、水路開削など、「ものと人間の文化史」シリーズに今後取り上げて欲しいテーマが私にはいくつもあります。
決してベストセラーになるようなタイプの本ではありませんが、存在していることそのものが、とても貴重。後世の者が調べ物をするときの礎となります。
今後もこのシリーズに注目していこうと思っています。
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