ポストモダン的状況の中で、どのように歴史叙述が可能かを模索した書。
本書で批判対象となるのは、歴史叙述には不可避的に物語的側面が紛れ込むことを強調して、史実とフィクションとの境界をなくそうとする人々である。
具体的にはヘルドン・ホワイトなどなのだが、ホワイトの主著『メタヒストリー』はまだ邦訳されていないので、本書と比較することが出来ないのは残念だ。
筆者は、史実が証拠によって定められていることを重視し、この点から、芸術と科学を同一視する構造主義を退ける。
しかし、かといって筆者は実証主義に流れるわけではない。
筆者から見れば、証拠をすべて認める実証主義と、証拠をすべて認めない構造主義者は、ともに証拠について単純な見方しか出来ていないのだ。
筆者は、証拠を「ゆがんだガラス」(p85)になぞらえる。
証拠というのは、常に徹底した批判的分析を行って、そして参照すべきものなのだ。
一方で筆者は、歴史叙述におけるレトリック的なものも重視する。
歴史叙述は、「証拠」以外にも「可能性」(「多分」とか「違いない」とかで書かれるもの)が含まれていていいのだ。
さて、筆者の主張は非常に常識的なものに思われる。
特に「証拠を鵜呑みも無視もせず、史料批判を経て歴史叙述せよ」というのは、当然のこととしか思えない。
しかし、当然のことが当然でなくなってしまっているのが、ポストモダン的状況なのだろうか。
歴史叙述に含まれる「可能性」については、幅があるように思われる。
可能性やレトリックが出来るかぎり排除されるべきもの(教科書など)もあれば、可能性やレトリックが重要な役割を占めるもの(一般向け娯楽歴史書など)もあり、ケース・バイ・ケースの側面も強いからである。
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歴史を逆なでに読む 単行本 – 2003/10/25
カルロ・ギンズブルグ
(著),
上村 忠男
(翻訳)
「モンテーニュは古遺物研究を利用して早咲きの植民地主義批判を提出した。
そして、ピカソは古典古代の形像を利用して、植民地主義がつくりだした諸条件のもとで、
非ヨーロッパ地域の具象文明をわがものにしようとしたのである。
二人とも、伝統を、それを生産した者の意図とそれをそれまで利用してきた者の意図に逆らって利用した。
ある意味では、二人とも、伝統を逆なでに読んだのであった。」(「序言」より)
中世の異端裁判記録を丹念に読みこんでミクロストリアを実践し、
歴史叙述の理論(メタヒストリー)においても論争をリードする、現代歴史学の泰斗ギンズブルグの、
日本語版独自編集による最新論集。
歴史とフィクション、証拠、他者認識をめぐり、ベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」に触発された「史料を逆なでに読む」方法によって、
実証主義にも懐疑論にも与さない新たな歴史研究の可能性を指し示す。
歴史的な事象は、真実へともたらしうるか。
歴史叙述と、裁判記録、民族誌、伝記、リアリズム小説との類似点と相違点とは。
証拠や証言、古遺物、さらには異質な文化との対話をとおして、
過去の「現実」と「可能性」を統合する"逆なで"的な読みとは何か。
古典古代から現代におよぶ瞠目すべき博識と、
所与の現実に批判的な距離をとる方法論的省察によって、今日の歴史研究の核心に触れる。
そして、ピカソは古典古代の形像を利用して、植民地主義がつくりだした諸条件のもとで、
非ヨーロッパ地域の具象文明をわがものにしようとしたのである。
二人とも、伝統を、それを生産した者の意図とそれをそれまで利用してきた者の意図に逆らって利用した。
ある意味では、二人とも、伝統を逆なでに読んだのであった。」(「序言」より)
中世の異端裁判記録を丹念に読みこんでミクロストリアを実践し、
歴史叙述の理論(メタヒストリー)においても論争をリードする、現代歴史学の泰斗ギンズブルグの、
日本語版独自編集による最新論集。
歴史とフィクション、証拠、他者認識をめぐり、ベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」に触発された「史料を逆なでに読む」方法によって、
実証主義にも懐疑論にも与さない新たな歴史研究の可能性を指し示す。
歴史的な事象は、真実へともたらしうるか。
歴史叙述と、裁判記録、民族誌、伝記、リアリズム小説との類似点と相違点とは。
証拠や証言、古遺物、さらには異質な文化との対話をとおして、
過去の「現実」と「可能性」を統合する"逆なで"的な読みとは何か。
古典古代から現代におよぶ瞠目すべき博識と、
所与の現実に批判的な距離をとる方法論的省察によって、今日の歴史研究の核心に触れる。
- 本の長さ312ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2003/10/25
- ISBN-104622070642
- ISBN-13978-4622070641
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
現代歴史学の第一人者による日本版ベストセレクション。史料が語る証拠や証言にもとづきながら、歴史の真実と可能性を統合する歴史叙述はいかにして可能か。「歴史における表象と真実」をめぐる考察を集成する。
著者について
カルロ・ギンズブルグ
Carlo Ginzburg
歴史家。1939年イタリアのトリーノに生まれる。ピサ高等師範学校専修課程修了。長らくボローニャ大学で近世史講座の教授職にあったのち、1988-2006年カリフォルニア大学ロスアンジェルス校で教える。現在はピサ高等師範学校教授。
邦訳のある主要著書:杉山光信訳『チーズとうじ虫――16世紀の一粉挽屋の世界像』(みすず書房、1984[原著1976])、上村忠男訳『夜の合戦――16-17世紀の魔術と農耕信仰』(みすず書房、1986[1966])、竹山博英訳『神話・寓意・徴候』(せりか書房、1988[1986])、竹山博英訳『闇の歴史――サバトの解読』(せりか書房、1992[1989])、上村忠男・堤康徳訳『裁判官と歴史家』(平凡社、1992[1991])、森尾総夫訳『ピエロ・デッラ・フランチェスカの謎』(みすず書房、1998[1994])、竹山博英訳『ピノッキオの眼――距離についての九つの省察』(せりか書房、2001[1998])、上村忠男訳『歴史・レトリック・立証』(みすず書房、2001[1999])、上村忠男訳『歴史を逆なでに読む』(みすず書房、2003)、上村忠男訳『糸と痕跡』(みすず書房、2008年)。
Carlo Ginzburg
歴史家。1939年イタリアのトリーノに生まれる。ピサ高等師範学校専修課程修了。長らくボローニャ大学で近世史講座の教授職にあったのち、1988-2006年カリフォルニア大学ロスアンジェルス校で教える。現在はピサ高等師範学校教授。
邦訳のある主要著書:杉山光信訳『チーズとうじ虫――16世紀の一粉挽屋の世界像』(みすず書房、1984[原著1976])、上村忠男訳『夜の合戦――16-17世紀の魔術と農耕信仰』(みすず書房、1986[1966])、竹山博英訳『神話・寓意・徴候』(せりか書房、1988[1986])、竹山博英訳『闇の歴史――サバトの解読』(せりか書房、1992[1989])、上村忠男・堤康徳訳『裁判官と歴史家』(平凡社、1992[1991])、森尾総夫訳『ピエロ・デッラ・フランチェスカの謎』(みすず書房、1998[1994])、竹山博英訳『ピノッキオの眼――距離についての九つの省察』(せりか書房、2001[1998])、上村忠男訳『歴史・レトリック・立証』(みすず書房、2001[1999])、上村忠男訳『歴史を逆なでに読む』(みすず書房、2003)、上村忠男訳『糸と痕跡』(みすず書房、2008年)。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2003/10/25)
- 発売日 : 2003/10/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 312ページ
- ISBN-10 : 4622070642
- ISBN-13 : 978-4622070641
- Amazon 売れ筋ランキング: - 550,670位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,741位歴史学 (本)
- カスタマーレビュー:
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