著者は、大戦後チェコスロバキアからアメリカに亡命した外交官を父に持ち、クリントン政権下で国連大使や国務長官などを歴任した親子二代の筋金入り元女性外交官・教授である。この本の特筆すべき点として、著者が外交交渉で直接プーチンや金正日などと会話を交わした経験をもとに、率直に彼等の態度・物腰や人間としての印象を語っており、通常のジャーナリストの記事とは一味違う興味深い内容である。
さて、著者が考えるファシスト（ファシズムを実行する人）とは、「自分を特定の集団又は国家の代弁者とみなし、人々の権利に無関心で、目標達成のためには暴力も辞さずにどんなことでもする人物」だという。著者は、現代世界の民主主義諸国が直面している深刻な試練や罠の状況を、歴史的及びグローバルな視点で捉え、20世紀初頭から始まったファシズム禍と酷似しているとして、警鐘を鳴らしている。ファシストはその創始者ムッソリーニに始まり、ヒトラー、スターリン、ミロシェビッチ（ユーゴスラビア）、チャベス、エルドアン、プーチン、オルバーン（ハンガリー）等々、綿々と現在まで受け継がれてきているという。著者は、「敵を知る」ことから分析を始める。ファシスト達の出生から終焉までを主要な事件を絡めて綴り、彼等の手練手管を読者が理解するよう促している。この歴史的視点で見れば、例えばプーチンが用いている数々の独裁手法は彼独自のものではなく、先輩（スターリン）の模倣に過ぎないことが判る。ファシズムの主戦略は世論操作でありデマの拡散であるが、SNSが発達した現在においては国家機関がそれを行っている場合も多く、その威力や拡散スピードは前世紀に比べ途方もなく増大しているという。
ファシストの態勢が定着するのは、社会的な拠り所が見つけられず、誰もが嘘をつき、自分のことしか考えていないように思えてくるときであるという。そうなった時には、対象がユダヤ人であれ、イスラム教徒であれ、黒人であれ、邪悪な他者から身を守るための強硬な力を行使して欲しいと民衆は願ってしまうのである。こんな時には、前世紀においてファシズムに対抗し撃破した経験を教訓にして、民主主義を守るために政党はイデオロギーの違いを超えて結集し、国民のニーズを満たすための総合的な行動計画を作るべきだという。
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