山本草二は、外務公務員1種試験の試験委員を務めており、受験生に読まれたのがこの本だった。
この本では、特に総論において問題提起が活発で、①国際法と国内法の関係につき、等位理論を紹介し、②法源論では一方的国内措置が国際法形成機能を果たすということを強調し、一方的行為の法源性を積極的に議論した。
また③主権という語よりも国家管轄権という表現を好み、その根拠として属地主義以外の根拠が妥当することはないのか、また国家の紛争を国家管轄権の抵触という観点から記述する傾向が強かった(A国の属地主義 vs B国の属人主義というふうに)。
また数々の先例(国際決議の決議、海外の学者の著作、判決など)を引用することも、特徴であった。同時代の京大系では田畑茂二郎が歴史的記述に厚いことと対照的だった。また、東大系では横田喜三郎はケルゼン主義者で理論が先行した(高野雄一は論評者が精読していない)。
現在では東大系に限っても、杉原高嶺、岩澤雄司らが、比較的項数がある概説本を出版しており、山本国際法の問題提起も「回収」されたようにみえる。すなわち、①等位理論は、義務の抵触の説明があいまいで、二元論の焼き直しに過ぎない。②一方的行為の法源性は否定が強い。核実験事件のみが一方的行為の法源性が認められたかにみえるが、それは義務の淵源と考えれば足りるとする説が強い。
こうして今日では、積極的に山本国際法を参照する機会は乏しい。なにより著者は死亡(2013年)しており、今後改訂されることもないだろうから、埋没していくほかはない。それでも、学生レベルでは模擬裁判、ゼミでの報告で一定程度の言及があるかもしれない。
しかしながら、改めて読み直すと、通説に果敢に挑んだ形跡があり、独特の日本語の表現もあいまって示唆するところが大だと感じた。
今後は、若い学者が日本の国際法学説史を書くときに参照され、そのときにまた光を浴びることになると思われる。
追記
引用される決議、著作などにあたってみると、引用されているはずの趣旨が記載されていないことが度々あった。本の作成過程での引用ミスなのか、その他の理由なのか、私には分からない。
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国際法 新版 単行本 – 1994/1/1
山本 草二
(著)
- 本の長さ778ページ
- 言語日本語
- 出版社有斐閣
- 発売日1994/1/1
- ISBN-104641045933
- ISBN-13978-4641045934
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
本書の初版創刊から8年、その間に国際関係の変動は現象面ではめまぐるしく、数多い事件や国際紛争が生じた。この新版では、新しい時代のエッセンスを組み込み、判例、実例、学説を素材に用いて大幅に書き改め、再構成した。国際法体系書の決定版。
登録情報
- 出版社 : 有斐閣 (1994/1/1)
- 発売日 : 1994/1/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 778ページ
- ISBN-10 : 4641045933
- ISBN-13 : 978-4641045934
- Amazon 売れ筋ランキング: - 525,299位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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