１千五百人からの修行僧を福州雪峰山に迎えた雪峰義存は、「北の趙州」と並び称される「南の雪峰」として、学僧の接化・教導に秀でた禅者として世に知られる。
「徳山の棒」で名高い徳山宣鑑の法嗣ながら、雪峰は、伝統的な「対一説法」で自己の事を唯一体得することこそ大事と説いた。個性が際立つ禅匠では、なんとも真っ正直すぎる禅風に思われる。
著者は、第四章で洞山良价禅師を引き合いに出し、雪峰禅の特色を明らかにする。
峻烈な接化方法に拠らずに修行僧一人一人に即した指導を心掛けた禅匠洞山。先師の雲巌曇晟出題の「末期の句」の解明に苦闘しつつ、ひたすら行脚を重ね、遂に過水の偈で大悟に到った洞山。
雪峰は、福州芙蓉山の霊訓禅師や投子禅師を経て洞山禅師に参禅したものの機縁叶わず、（やんわり参禅を拒んだ）洞山禅師に勧められて徳山禅院に転じ、徳山下で得悟する。
巌頭全豁との行脚中に、「門より入る者は家珍にあらず。もし大教を播揚せんと欲せば、一々自己の胸襟より流出し来たるべし。」との師兄巌頭の叱責交じりの助言を受けた四十歳半ばの雪峰は、漸く大悟を果たしたという（鼇山鎮の成道）。
まさに、洞山をも凌ぐ紆余曲折の末の大器晩成の人である。この経歴が、雪峰をして自己究明の答話で質問僧を問い詰める僧堂教育者たらしめた、と著者はいう。福州を治めた王審知の支援や近郷信者の寄進など大寺院を維持し得る豊かな経済力も、僧堂教育者たる雪峰を支えた。
雪峰の一番弟子たる玄沙師備も、師の開山、禅院運営、教育相談に大いに尽力したという。潙山霊祐における仰山慧寂や洞山良价における曹山本寂の役割立場に似ている。
が、しかし、雪玄宗や沙峰宗などの宗名展開を見せなかったことを寿ぎたい。雪峰が指し示した禅道、独立独歩という教えの賜物に違いないからだ。
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