「 『雪に関する勉強会をしてみませんか』と、
藤井教授(富山大学教養学部教授・富山地学会会長・当時)から電話があったのは、
豪雪のさなかの1月初旬のことだった。
『たいへん結構です。やりましょう』と答えはしたものの、
はたして人が集まるだろうか、会場をどこにしたものか、と心配だった。
そのころ、誰もが会合どころではなく、
各自が身近な雪の始末に汲々としていたからである。
結局、富山地学会主催の公開講座『雪のシンポジウム』と題し、
昭和56年1月24日、富山市立科学文化センターで開催の運びとなった。
結果は、われわれの予想を裏切って会場があふれんばかりの大入りとなり、
雪問題に関する一般市民の関心の高さを知らされた。
・
(中略) 本書は、この『雪のシンポジウム』がきっかけとなって生まれた。
藤井教授とシンポジウムの成果を話し合っているうちに
『五六豪雪を記録する意味で、シンポジウムの内容をまとめてみよう』ということになったのである。
折りよく、北林(吉弘)先生(文教大学教育学部助教授・当時)が
古今書院との間で出版の約束をとりつけてくださったので執筆の手はずとなった。
本書の全体構成の関係からシンポジウムの発表者以外の人たちにも執筆を依頼した。
本書刊行のねらいは、(中略) 五六豪雪に関して富山を例にして記録を残そうというものである。
(中略) 1・ 北陸の雪の特質はどんなものか、 2・ 社会の進展にしたがって、雪の影響の現れ方がどう変化しているか、
3・ 雪の利用をどのように進めればよいか、の三点がシンポジウムを通して注目されたので、
それらに焦点を当てた構成にした 」
(須山盛彰・富山県総務部県史編さん班副主幹・当時による「あとがき」より)
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・
・・・だから、この本はかなり学術的なもので、しかもその内容は古いですから、
学術的には役に立ちませんし、難しい話題を難しく語っているので、
内容の半分ちかくは極めてマジメでカタイ本です。
でも、それでも本書には☆5個与えたいです。
56(ゴーロク)豪雪という、ケタ外れの豪雪があった昭和55年(1980)末から
昭和56年(1981)2月の富山県というのは、
自分はあまりにも小さすぎて、ほんのかすかにしか憶えていないのですが、
建物の2階から飛び降りても大丈夫だったことだけは憶えています。あれは凄かったです。
本書には、
この56豪雪のときに当時の富山県民はどのように大雪と戦ったのかということが
余すことなく記されています(結果から言えば、判定、引き分けと言ったところ?)。
また、全編にわたって昭和38年(1963)に起こった38(サンパチ)豪雪との比較をしていて、
38豪雪がいかに恐ろしいものであったかがわかります(このときは惨敗。これを教訓にしたから引き分けに持ち込めたみたい)。
先述したように難しい本ですが、興味深い逸話が多いからこそ面白いわけで、
それらの一部を挙げると以下のとおり。
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生活面の被害
1・ 生鮮食料品
「 青果物、生鮮魚介類、食肉・鶏卵の入荷は順調で、価格も例年の冬並みで推移した。
38豪雪の時は、長期間入荷がストップし、地物は出荷不能になり、
県下各地でヘリコプターによる生鮮食料の投下がおこなわれたほどであった。
56豪雪ではそのような大事に至らなかったのは、
何といっても北陸自動車道が動脈として動いたからである。
2・ 燃料
石油類は海上輸送により、LPガスはトラックにより入荷し、
共に量、価格とも安定していた。
しかし、LPガスおよび都市ガスのガス漏れ事故が異常発生し、
関係者をあわてさせた。
これは雪の重みや除雪作業による供給管の折損、き裂、ゴムホースの離脱などによるもので、
38豪雪時には見られなかったものである。
3・ 電力・通信関係
配電関係は、着雪などによる電柱の損壊などのために、8万8721戸が停電した。
また、1月3日、富山市北代(きただい)の変電所構内で、
着雪の重みによって高圧送電鉄塔11基が倒壊した。
この事故で30ヶ所が断線、最高3時間にわたり2万5700戸が停電した。
(中略) ただし、電話の故障については、38豪雪以来施設の改善が加えられたので、
電話が普及した割には事故件数が少なかった (後略)。
4・ その他
生鮮食料品などの価格は安定していたが、
スコップ、スノーダンプ、スチロール製波板(屋根雪を滑り落とさせる)などが品薄となり、
一部のスーパーでは、高い値段で売り出すところもあった。
また、除雪労務者不足が深刻化し、賃金もしだいに値上がりしていった。
初め日給7~8000円であったものが、ピーク時には2万円出しても来手がなく、
人探しにひと苦労する状況であった。
し尿の汲み取り、ゴミの集配も狭い街路の地区ではままならなかった。
更に、建物のみならず庭木やフェンスなどの被害が雪どけとともに明らかになってきた 」
・
大いに進んだ幹線道路の除雪
「 38豪雪時の道路交通の混乱ぶりについては、その後長く、県民の間で語りぐさとされてきた。
バスが富山市内に入ってから終点に着くまで3時間もかかったとか、
職場までの通勤に片道2時間もかかって歩いたとか、
毎日、雪おろしをするのが仕事であった、などである。
当時、県では一応、道路の状況に応じて除雪計画がたてられていた。
しかし、なにぶんにも、実際に稼働した除雪車は、
県有車11台、建設省保有車20台、民間借上車20台程度 (中略) であったから、
たちまち降り込められてしまった。
国道8号線は天田峠が最難関で、長期にわたってマヒし、
富山県地域全体が孤島化した。
(中略) 最終的には自衛隊の機械化部隊の出動を要請し、
ようやく除・排雪が軌道に乗りだした。
県下の国鉄・道路関係の除雪に当たった自衛隊員は延べ2万1000人に達し、
献身的に働き、県民から大いに感謝された 」 カコ(・∀・)イイ!!
・
・・・この苦い敗戦があったからこそ、56豪雪のときには
「 県有の除雪機械125台と民間借上げ(委託)車両566台を配して 」 除雪できたのですね。
手ぐすね引いて待っていたというやつでしょうか。
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それと、本書は写真が大変に豊富で、すべて白黒なのですが、
なにせ写っているありとあらゆる物が白い雪に隠れているので、
解像度の悪さなどまったく気になりません。
屋根の上に人間の背丈よりも高く積もった雪(しかも街中!)、
大雪に潰された民家や鉄塔、果てしなく続く大渋滞、
鉄筋ビルの雪おろし、よく見ると1階が完全に雪に埋まっている、
そして雪が溶けて春到来、そこらじゅうがゴジラが通った跡のように破壊し尽くされている・・・などなど。
ハッキリ言って、本書はこの掲載されている写真だけで買う価値があります。
自分の中国史関連のレビューを手伝ってくれた中国人女性Uなどは、
この本の写真を見て
< えっ、これマジで今、私たちがいる富山なんですか!? > と唸ったほど。
それぐらい本書に収められている写真は凄いです。
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「 雪の湿り具合は含水率で現される。
含水率は雪の1グラムに何グラムの水が含まれているかを百分率で現したもので、
かなり湿っている場合で10%ぐらいで、含水率は最大でも20~30%を超えることはない。
含水率の測定器としては多数の方法が考案・試作されているが
簡便で誰にでも使いこなせるような測定器は少ない 」
・・・こんなふうに、基本的に専門的なお話をしている本なのですが、
56豪雪と38豪雪の被害の話、
そして大雪と富山県民の戦いのお話などがむっちゃ面白かったので、
難しいのを差し引いても、死んでもオススメの一冊です。
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なお、富山県に関する本としては、以下のような本もオススメ。
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「北陸ぴあ 今が旬!大人のための『北陸』観光ガイド決定版」 ぴあ発行 平成27年(2015)
北陸新幹線開通記念に出版された本。観光ガイドのくせにほとんど写真集レベルの本。
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「富山探検ガイドマップ」 桂書房 平成26年(2014)
市内に焦点を絞って徹底的に遊びつくすオールカラー本。希少写真多し。
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「富山湾 濱野敏男写真集」 出版芸術社 平成17年(2005)
表紙の写真に惹かれたならば、絶対に買いの写真集。
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「とやまの桜」 北日本新聞社 平成11年(1999)
県内全域で撮影しているので、一つか二つは知っている写真がある写真集。
平成11年発売のため、現在とは少しだけ違う風景が見れる。
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「となみ平野の四季 吉野晴郎写真集」 東方出版 平成9年(1997)
夕日の光を浴びて黄金の海に変わる砺波平野と、空の青さと高さは必見。平成9年の発売という古さも良い。
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「富山廃線紀行」 草卓人 桂書房 平成20年(2008)
県内すべての廃線の歴史を解説しながら廃線跡を辿ってゆく写真集。希少写真多し。
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「富山県 新風土記1956」 岩波写真文庫復刻ワイド版18 昭和62年(1987)
昭和31年(1956)に発売されたポケットサイズの白黒写真集を昭和62年に復刻した本。
64ページという短さを差し引いても大変に優れた本。
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「聞き書 富山の食事」 日本の食生活全集16 農文協(農山漁村文化協会) 平成元年(1989)
大正時代の終わりから、昭和の初め頃の食生活とその歴史を解説する本。写真多数。
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「村の記憶 増補版」 山村調査グループ編 桂書房 平成16年(2004)
平成16年までに廃村となった県内すべての廃村を解説する本。写真多数。希少写真多し。
・
「とやま電車王国」 北日本新聞社 平成23年(2011)
富山県内を走るすべての電車とその風景を収めた、368枚の写真を楽しめるオールカラーの写真集。
・
「富山なぞ食探検」 読売新聞富山支局・桂書房 平成20年(2008)
富山県独自の食材を扱ったオールカラー本。「富山ブラック」や「ますずし」は勿論、
「バタバタ茶」や「どっこきゅうり」のような郷土史バカ向けのものまで網羅。
・
「富山県の基本図書 ~ふるさと調べの道しるべ~」 桂書房 平成23年(2011)
県内の文化や歴史を知るための本の目録とその解説。解説だけでも十分に面白いが、読み手は選ぶ。
・
「総曲輪物語 ~繁華街の記憶~」 桂書房 平成18年(2006)
総曲輪通りの誕生から、本書が発売された平成18年までの歴史を追った本。
全編白黒だが、写真多数。昭和7年の広告集は必見。
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「置県百年 富山県」 富山県知事公室広報課 昭和58年(1983)
富山県自身が置県100年を記念して刊行した写真集。元々は非売品。他所では見れない写真が満載。
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「富山市by AERA」 朝日新聞出版社 平成27年(2015)
美麗な写真と豊富なネタを用いて、現代の富山市を考察する「自治体研究」本。
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「立山のはなし」 廣瀬誠 北日本新聞社 平成15年(2003)
古代から現代までの立山連峰の歴史と文化を綴った傑作。立山と皇室の縁もわかる。
・
「越中から富山へ」 高井進 山川出版社 平成10年(1998)
江戸時代後期~大東亜戦争敗戦までの富山の歴史を追いつつ、その県民性と文化にまで迫った良書。
・
「日本の古代遺跡13 富山」 藤田富士夫 保育社 昭和58年(1983)
学術的には古い本だが、収録された昭和40~50年代の写真・地図・発掘エピソードなどが、むっちゃ貴重。
たとえば、富山医科薬科大学の「ない」呉羽山の航空写真とか。巻頭32ページのカラーページあり。
・
「有峰の記憶」 前田英雄・編 桂書房 平成21年(2009)
かなり専門的な記録集だが、有峰村の謎の狛犬や、有峰ダムができるまでなど、有峰村の歴史と文化を網羅した大著。
・
「富山の百山」 富山県山岳連盟・編 北日本新聞社 平成26年(2014)
中部国立公園の46山は勿論、尖山、牛岳、呉羽山、二上山までをも網羅した、ほぼオールカラーの本。
写真の数と美しさは必見。
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「越中文学の情景 富山の近・現代文学作品」 立野幸雄 桂書房 平成25年(2013)
昭和47年に西町で起こった数千人規模の大暴動の詳細を紹介したり、なぜか吉村昭を徹底的に糾弾したりと、
単なる富山を舞台とした文学作品の評論集ではないのがすごい。いろいろな意味で、むっちゃ面白い。
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「武者の覚え 戦国越中の覇者・佐々成政」 萩原大輔 北日本新聞社 平成28年(2016)
秀吉が「武者の覚え」と絶賛した成政の名声は、なぜ忘れ去られたのか?誰が何のために成政のイメージを変えたのか。
そして全てのベールが剥がれた時、見えてくる佐々成政の真の姿とは。中盤までは普通の内容が、後半一気に面白くなる快作。
・
「神通川むかし歩き」 桂書房 平成28年(2016)
神通川とその川沿いの建物などを、明治時代と現在の写真を使って見比べたり、今ではほとんど失われた神通川での漁の話や、
神通川の歴史を解説したりする良書。巻頭16ページがカラーなのも嬉しい。
・
「越中山河覚書1」と、同「2」 桂書房 平成14年(2002)=1 平成15年(2003)=2
県内の隠れた名所を紹介する本。それも、観光ガイドには絶対に載らない地味な場所ばかり。
写真・地図ともに白黒なれど多数。ただし、1巻は2巻と比べて色々と不満あり。2巻は傑作。
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「各駅停車全国歴史散歩17 富山県」 北日本新聞社・編 河出書房新社 昭和54年(1979)
掲載写真は小さく、解像度も悪く、ほぼ白黒だが、その数は膨大で、昭和54年以前のものばかりなので大変貴重。あと、電車や
駅の話はほどほどで、駅の周辺で起こった事件や出来事の記述に重きを置いているのも良い。他の郷土史本では見れない事件がたくさん収録。
・
・・・とりあえずはここまで。また何かあったら追記しておきます。
このレビューが参考になれば幸いです。 (*^ω^*)
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富山地学会
(編集)
- 本の長さ257ページ
- 言語日本語
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- 発売日1982/1/1
- ISBN-104772210636
- ISBN-13978-4772210638
登録情報
- 出版社 : 古今書院 (1982/1/1)
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