その人気と知名度に比べて、護教論・神学的なものを別にすれば、日本人の手になるまとまった『ナルニア国物語』論はなかなか無かったと思うが、これは力作にして良書だと思う。
研究・批評史を着実に踏まえた本格的な研究書だが、一般の読者が『ナルニア国物語』をより深く味わううえでも有益な本といっていい。各エピソードを丹念に読み解いて「想像力の回復」「黄金時代への帰還」といったモチーフを解き明かし、『ナルニア』のキリスト教文学としての枠を超えた「ファンタジー」としての魅力を再認識させてくれる。
ストーリー上の疑問点についても、本書を読んで納得できたものも多い。とりわけスーザンの扱いをはじめ、『さいごの戦い』の展開に釈然としないものを感じた『ナルニア』読者は、ぜひ本書の考察を読んで欲しいと思う（反批判されているP. プルマンのナルニア批判は本書の考察を読むまでもなく「批判」というより「嫌悪」でしかないと思うが…）。
全般に著者の『ナルニア』に対する愛情が伝わってくる論調といえる。ターキッシュ・ディライトの話をはじめ、随所に挿入された「コラム」も面白い。
個人的には固有名詞は瀬田訳を踏襲して欲しいところだったが、これは「音響的効果を重視する」という著者のこだわりということで、特に評価を落とす材料にはしない。
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