題名にある「コンテンツ」とは、映画・音楽・マンガ・アニメをはじめ、「人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するもの」だそうです。本書は様々なコンテンツを手がかりに、日本・韓国・香港など、主に東アジア圏の国々の文化を考察しています。「あとがき」に見られるように、西洋学術世界への一種の異議申し立てとして編集された本書は、各章で扱われた題材への関心が少しでもある人であれば、一読の価値があるのではないでしょうか。
以下、各章について。
第1章 韓国歴史ドラマの特徴
個人的には韓流ドラマにまるで関心がないものの、テレビ欄を見ているだけでも、いやに歴史ものが多いことはなんとなく気になっていました。それについて本章では、韓民族のアイデンティティーの確認など、ドラマを通じての国民へのメッセージ性という観点から解釈しており、興味深かったです。高句麗史に対する中国との歴史観の相違が鮮明化した時期には、各放送社がこぞって高句麗史をドラマ化した、とか。
第2章 「文化政策」としての自衛隊協力映画
自衛隊そのものを取り上げている・いないを問わず、映画製作上、自衛隊の協力が求められる際、それが自衛隊の方針に合致していれば、無償で(つまり国民の税金を使って)なされる――。本章ではそれが抱える問題点を、具体的な映画数本を題材に鋭く指摘しています。娯楽として「自主的に」映画を観にいっているつもりが、いつの間にか特定のメッセージを与えられていたとしたら……? 考えだすと、怖いです。
第3章 吹き替えの文化/文化の吹き替え
『ゴジラ』がアメリカで『怪獣王ゴジラ』として公開された際、単に英語に吹き替えただけではなく、オリジナルにないシーンが付け加えられ、アメリカの文化的アイデンティティーに合うよう改変された、というエピソードには、なんだか考えさせられました。あと、本筋とはまったく関係ないのですが、『0011・ナポレオン・ソロ』の日本語吹き替えの口調って、新井素子の初期作品に見られる男性キャラクターの口調ですよね。なんか時代を感じます。
第4章 ポピュラーカルチャーを通じて出現した「香港人アイデンティティー」
香港人のアイデンティティーを、西洋・東洋、古い・新しいといった、相対立するもののどちらでもない、「間性」というロジックで考察しています。本章で印象に残ったのは、調査が抱える問題点を指摘しているところ。「被調査者は調査者の政治的志向を察知して、(中略)さまざまな態度をとりうる」という指摘は、調査方法や調査項目次第では決まった結論を誘導しうる、ということですよね。それはマスコミの世論調査にも通じることだなぁと思いました。
第5章 異文化に対する抵抗と吸収のジレンマ
「中国アニメ業界への日本アニメの影響に関する一考察」との副題が付いている本章ですが、何せ扱っているのがアニメなのですから、実際のアニメの画像を入れておいてほしかったです。著作権の関係もあるとは思いますが、字だけでアニメの説明をされても、日本アニメの影響を受けているかどうかの判断もできないので。その点をクリアすれば、もう一段クオリティが上がった気がします。
第6章 初期テレビ史における日本のアニメーション再考
第3章で扱った『ゴジラ』の問題ともかぶりますが、かつては『宇宙船艦ヤマト』などの日本のアニメがアメリカで公開される際、日本を示すような表現などが編集され、視聴者たちが日本製のアニメだと知らずに観ていた、という事実は衝撃でした。いろいろな意味で軽んじられていたんですね。
第7章 『AKIRA』にみる音楽と映像の相互作用
私は『AKIRA』を観たことがないのですが、本章を読んで「観てみようかな」と思いました。研究論文でありながら、期せずして扱っている題材を観てみようという意欲をかきたてた、というのが面白かったです。
第8章 日本アニメにおける音声についての考察
日本アニメに共通する特徴として、「オープニングには緊張感と高揚感のある音楽を、エンディングには穏やかな音楽を」という使い分けがなされている、という指摘に、「そういえば……」と思いました。確かに『銀河鉄道999』とかもそうですね。
第9章 悪魔の遊び――台湾のコスプレ
コスプレに個人的にまるで興味がないため、本章で取り上げられるコスプレイヤーたちの姿には、ただただ唖然。しかし、「コス」っていつの間に動詞化したんでしょう。それだけ市民権を得たというか、一般化したということでしょうか。
第10章 メキシコのアニメファンダム
メキシコにおいてはアニメが流行る背景には、その都度「メキシコ社会やその現状に対する批判や違和感」がある、という指摘は興味深いです。アニメを切り口に、政治や歴史を語ることもできるのですね。しかし、「ファンダム」って何だか最後まで分からなかったのですが、「ファン層」のことでしたか……。
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コンテンツ化する東アジア: 大衆文化/メディア/アイデンティティ 単行本 – 2012/12/1
- 本の長さ285ページ
- 言語日本語
- 出版社青弓社
- 発売日2012/12/1
- ISBN-104787233483
- ISBN-13978-4787233486
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登録情報
- 出版社 : 青弓社 (2012/12/1)
- 発売日 : 2012/12/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 285ページ
- ISBN-10 : 4787233483
- ISBN-13 : 978-4787233486
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,556,045位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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摂南大学現代社会学部教授。
早稲田大学第一文学部卒業、上智大学大学院修士(新聞学)、横浜市立大学大学院博士(学術)。
NHK幼児番組ディレクター、日本学術振興会特別研究員、横浜市立大学客員准教授、筑紫女学園大学准教授・教授、東京都市大学メディア情報学部教授を経て、2023年4月より現職。
映画ジャーナリスト
1962年生まれ。元・早稲田大学客員教授。日本ヘラルド映画勤務を経て1993年にフリーの映画ジャーナリストとして独立。1997年に第1回京都映画文化賞受賞。2022年に野球文化學會賞受賞。2004年から2023年3月まで早稲田大学で映画史を教えた。主著に『アメリカ映画と占領政策』(2002年、京都大学学術出版会)、『アメリカの友人 東京デニス・ホッパー日記』(キネマ旬報社、2011年)、『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』(2013年、集英社クリエイティブ)、『日本ヘラルド映画の仕事 伝説の宣伝術と宣材デザイン』(パイインターナショナル、2017年)、『高麗屋三兄弟と映画』(2018年、雄山閣)、『イージー☆ライダー 敗け犬たちの反逆』(2020年、径書房)、『ベースボールと日本占領』(2021年、京都大学学術出版会)、『近衛十四郎十番勝負』(2021年、雄山閣)など。
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