「ネット・バカ」「プルーストとイカ」「パイドロス」はいずれもソクラテスによる書物批判「書物は人々の記憶力を弱め、読者は内容を吟味せずに鵜呑みしてしまう」に関するものであるが、「では文字の無かった時代に成立し、口伝されていた叙事詩はどんなものか」と思って本書を読んだ。
ガンダム世代には嬉しい安彦義和氏が表紙やカラー挿絵を描いている。外観から少年少女向けかと思ったが、完全に大人向けの内容で（「甘美な同衾をくり返しながら･････」など表現は抑えられているが、小中学生向けとはいえないような気が・・・・）、また、いわゆる「物語」というよりも、研究者である著者による「解説書」に近い体裁である。ストーリー展開の要所は押さえつつ、それが意味するものを考察している。
同じくホメロスによるとされる叙事詩イリアスが、勇者アキレウスの「武勇（膂力）」を讃えるものであるのに対し、オデュッセイアは主人公の「知謀、術策」を讃えることで一貫している。そして、オデュッセウスは美女神カリュプソから「夫になってくれれば不老不死にしてあげる」と７年間も毎晩熱烈に誘われても肯んぜず、女神の許で人知れず生き長らえるよりも、英雄として人間界に広く知られやがて死ぬ道を選び、この姿勢も一貫している。物語そのものは奇想天外であるが、著者による解説・考察により、更に興味深いものとなっている。
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