雑誌『幽』の編集長を務める東雅夫が同志社大学で行った講演が契機となって生まれた本だそうで、そのため執筆陣11人のうち5人が同志社大学の教授・准教授で構成されている。あとがき対談でも語られているが、この本から《幻想と怪奇の同志社！》みたいな伝統が出来ると面白い。山尾悠子、有栖川有栖、藤野可織などといった〈霊的作家〉たちも同志社卒らしいので、そういう作家たちも巻き込んで盛り上げていけそうだ。
さて肝心の内容であるが、これが中々面白い。トマス・ハーディーとかカズオ・イシグロみたいなこの手の企画ではほとんど取り上げられることのない所謂〈純文学作家〉たちが、正面切って怪奇幻想の文脈として語られる所に目がいく。うむ、いい目配せだ。
しかし面白さで一頭地を抜いていたのは、冒頭を飾る金津和美の「分身 ジェイムズ・ホッグと芥川龍之介」ではなかったか。ホッグの文学がエディンバラの高度に発達した雑誌文化に支えられて成立したことや、あの和辻哲郎が「幽霊」(1911)という分身譚をものしていたなど、有益な情報に満ちていて大変勉強になった。そして「分身」をキーワードに西のホッグと東の芥川を見事に切り結んでいくその時間と空間を超えるダイナミズムをもって、本論文が他論文より優れていると信じる。幻想文学ファンなら一読に値する。
尚最後に執筆者インタビューがついているのだが、各々どういう経緯で英文学を志したかが書かれていて、割と愉しい。
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