私は、英語教育において「英語教育史」という分野が確立していることを、本書を通じて初めて知った門外漢である。
英語教育についてこれまで膨大な議論が費やされてきたが、英語教育の歴史を踏まえた議論はほとんどなされてこなかったように感じる。本書は歴史的な視点から英語教育を考えるための第一級の史料として高く評価できる。
本書の特徴として、専門書なのに実に読みやすい文章で書かれていることがある。もちろん学術論文が元になっているため「エッセイ」までやわらかくないが、硬質で明快な文体で、疑問点が残らない書き方をしている点が優れている。専門外の私のような者にはありがたい。また、そうでありながら、記述の学術的な裏付けとなる資料もきちんと揃えられている。入手困難なものを含めてこれほどの資料をそろえ、分析し、わかりやすく書いた本は希だろう。一般に認知度が高くない分野の専門家が書くべき方向性を持った本として、お手本となりうるレベルにある。
本書では多数の興味深い事実が次から次に明かされていくのだが、もっとも興味深かったのは軍学校の英語教育を論じた箇所である。当時のエリート校である兵学校が、いかに進んだ英語教育をおこなっていたかには、「驚き」のひとことしかない。戦後の英語教育がなぜこの路線に乗れなかったのだろうか。私も含めて、多くの人が戦前・戦中は英語が「敵性語」として疎かにされたと教えられてきたのではないかと思うが、それは事実に反する。もちろん、エリート層のための英語教育と戦後のみんながやる英語教育では質が違うのは当然だろう。ただ、戦後、過去をきちんと分析してその上で今後の英語教育を考えていれば、今のような迷走状態はなかったかもしれないと考えると、かえすがえす残念でならない。
早期英語教育、オーラルメソッド、訳読批判、専門学校における英語教育など、本書には同時代の英語教育の問題点に対するヒントが詰まっている。英語教育についてきちんと考えたいなら、本書はまさに「必読」である。自信を持っておすすめしたい。
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