小説から哲学、記号論等の幅広い分野で活躍し、中でも特に『薔薇の名前』等の問題作を世に送り出した事でも知られる現代文芸界の巨人ウンベルト・エーコ…そんな彼が綴る“異世界”とは果たしてどのような土地なのであろうか。
それは、所謂“あの世”でもなければ、SF作品に登場するような未来都市でもない…然しながら、過去の人々が何処かにきっとあると信じ、願い、そして実際に探索と冒険を繰り返して来た…そんな人類の希望と夢の集大成こそが本書で語られる“異世界”なのだ。
本書は先ず、第一章に於いて大地平板説と大地球体説に言及する所から始まる。
私達はとかく「地動説vs天動説」の争いと混同してしまう所為か、古代人は地球の形を理解していなかったように勘違いしがちであるが、本章ではその誤解を解き、地球が球体である事自体は既にプラトンの時代から認識されていた事を説いている。
やや学術的な書き出しではあるものの、この章では古代から人類が意外にも冷静に地球というものを捉え、決して無知な空想ばかりに浸っていた訳ではない事を証明しているので、尚更、異世界の存在意義…即ち、高度な知識を持っても尚、実在すると信じられて来た世界には一体何があり、何が求められたのかという事を考えさせてくれるに違いない。
そして愈々、本題となる“異世界”へと旅立つ。
聖書にある土地、ホメロスの神話、東方世界、エルドラード、アトランティス、ウルティマ・トゥーㇾとヒュペルボレイオイ、聖杯伝説、アラムートとアサシン(暗殺集団)、コカーニュの国、ユートピア、ソロモンの島と南大陸、地底の国、レンヌ・ル・シャトー等など…このように列挙すると「何だ、結局は空想の世界ではないか」と思ってしまうかもしれないが、侮る事なかれ-本書は決して御伽噺を取り上げている訳ではなく、それ等の土地に対する当時の認識や実態、或いは伝説が生まれた背景等を全て分析・考察した上で、改めて“異世界の現実”を暴き出しているのだ。
エーコが冒頭で「架空の場所は扱わない」と断言したのは他でもない…それは「最初から実在しない事を知っての上で創作された世界は扱わない」という意味であって、仮に結果は架空だったとしても「実在すると信じられて来た世界」は、本書の中では極めて有用な意義を持つ…即ち、ここには当時の価値観、信仰、道徳、恐怖観、夢、希望等など、ありとあらゆる概念が集結しているだけに「幻想の現実性」を肌で感じる事が出来るのだ。
本書を読んで曖昧さや肩透かしを食らう事は一切ない。
ここにあるのは“実証とロマン”の狭間であり、これこそが正しく、エーコが私達に伝えようとした“異世界”の全てなのであろう。
因みに、各章はそれぞれの世界の紹介と考察を整然と纏めているが、加えて、当時の記録や関連書籍(例えば、マルコ・ポーロ『東方見聞録』があるかと思えば、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』もあり、実に幅広い)を抜粋で読めるのが嬉しい。
更には独創的、且つ夢幻的な掲載図版の数々(何れも秀逸な芸術作品ばかりである)には驚かされるばかりで、立派な美術書と言っても過言ではない程である。
記録を読み、且つ、作品を観る事に依って、逸話だけには惑わされない確固たる知識を得る事が出来ると同時に、想像力・空想力を究極の世界にまで導いてくれるであろう。
本書の頁を開けば、そこには魅惑的で不可思議な世界が次々と登場するばかりか、実際にその存在を信じて来た、謂わば「人類の心の歴史」がある。
完璧にして稀有なる名著だ。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
異世界の書: 幻想領国地誌集成 単行本 – 2015/10/1
- 本の長さ479ページ
- 言語日本語
- 出版社東洋書林
- 発売日2015/10/1
- ISBN-104887218214
- ISBN-13978-4887218215
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 東洋書林 (2015/10/1)
- 発売日 : 2015/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 479ページ
- ISBN-10 : 4887218214
- ISBN-13 : 978-4887218215
- Amazon 売れ筋ランキング: - 799,980位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.6つ
5つのうち4.6つ
8グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2018年4月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2016年8月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
思っていた通りの美しい印刷の本でした。カバーの加工が汚れにくい傷つきにくいものでしたらよかったです
2016年3月4日に日本でレビュー済み
豪華本です。図版・写真が多く掲載されています。光沢のある紙が用いられ、美術書のような扱いがなされて、見応えがあります。
当該書籍で取りあつかう『異世界』について、著者は「伝説の土地や伝説の場所」のことであり、(そして、「架空の」「虚構の」「創作された場所は扱わない」と述べ)、それらの土地や場所は「信念の流れを創り出す」ものであり、「幻想のもつ現実性(リアリティ)こそが本書を貫く主題となる」と『序論』に記します。
第1章は『平板な土地と対蹠地』と題され、古代・中世における「土地や場所」の観念について注意が向けられています。とりわけ、中世の人々が「世界は球体であることを」知らず、大地は平板であると信じていたとする「常識」は、実は「19世紀の世俗思想家たちによるでっち上げ」であることが示されています。常識が覆されます。
以下、2章『聖書の土地』、3章『ホメロスの土地と七不思議』、4章『東方の驚異ーアレクサンドロスから司祭ヨハネまで』、5章『地上の楽園、浄福者の島、エルドラード』、6章『アトランティス、ムー、レムリア』、7章『ウルティマ・トゥーレとヒュペルボレイオイ』、8章『聖杯の彷徨』、9章『アラムート、山の老人、暗殺教団』、10章『コカーニュの国』、11章『ユートピアの島々』、12章『ソロモンの島と南大陸』、13章『地球の内部、極地神話、アガルタ』、14章『レンヌ・ル・シャトーの捏造』、15章『虚構の場所とその真実』、訳者あとがき、附録(作家名索引、図版作者名索引、図版一覧、映像作品一覧、邦訳参考文献、参考文献、図版出典)とつづきます。
各章の構成・内容は、『訳者あとがき』にあるとおりです。そこには、「美麗な図版の合間に配置されたテクストは、エーコ自身の執筆になる本文と、各主題に関連する様々な文献のアンソロジーで構成されるが、本文の筆致は軽やかで読みやすく、アンソロジー部分は、本文を補う資料としての役割はもちろん、読者を知の沃野へ導く扉ともなっている」とあります。実際のところ、「本文を補う」文献資料の膨大さに圧倒されますし、さらなる興味を呼び起こすものとなっています。
たとえば、第5章中の見出しに「エルドラード」がありますが、ウォルター・ローリー卿などによって文字通りの探索がなされたものの、「探索への人々の関心が次第に薄れていくと、今度はこの題材をアイロニカルに利用して世の中を批判する作品が現れる。ヴォルテールの『カンディード』である」と本文テクストにはさらっと記述され、後に1ページほどを用い、(本文テクストのルビ程の活字で)『カンディード』からの引用がなされています。
『序論』において「虚構の場所については」「扱わない」と記しながらも、最終章のテーマは『虚構の場所とその真実』です。その本文テクスト末尾には、「こうして最後にひとつの慰めが得られる。それは伝説の土地であっても、信仰の対象から虚構の対象へと変わった瞬間に真実になるということである」 と、あります。どういう意味でしょう。どうも、そこが、本書の肝(キモ)のようです。しっかり掴むことができればと願います。
当該書籍で取りあつかう『異世界』について、著者は「伝説の土地や伝説の場所」のことであり、(そして、「架空の」「虚構の」「創作された場所は扱わない」と述べ)、それらの土地や場所は「信念の流れを創り出す」ものであり、「幻想のもつ現実性(リアリティ)こそが本書を貫く主題となる」と『序論』に記します。
第1章は『平板な土地と対蹠地』と題され、古代・中世における「土地や場所」の観念について注意が向けられています。とりわけ、中世の人々が「世界は球体であることを」知らず、大地は平板であると信じていたとする「常識」は、実は「19世紀の世俗思想家たちによるでっち上げ」であることが示されています。常識が覆されます。
以下、2章『聖書の土地』、3章『ホメロスの土地と七不思議』、4章『東方の驚異ーアレクサンドロスから司祭ヨハネまで』、5章『地上の楽園、浄福者の島、エルドラード』、6章『アトランティス、ムー、レムリア』、7章『ウルティマ・トゥーレとヒュペルボレイオイ』、8章『聖杯の彷徨』、9章『アラムート、山の老人、暗殺教団』、10章『コカーニュの国』、11章『ユートピアの島々』、12章『ソロモンの島と南大陸』、13章『地球の内部、極地神話、アガルタ』、14章『レンヌ・ル・シャトーの捏造』、15章『虚構の場所とその真実』、訳者あとがき、附録(作家名索引、図版作者名索引、図版一覧、映像作品一覧、邦訳参考文献、参考文献、図版出典)とつづきます。
各章の構成・内容は、『訳者あとがき』にあるとおりです。そこには、「美麗な図版の合間に配置されたテクストは、エーコ自身の執筆になる本文と、各主題に関連する様々な文献のアンソロジーで構成されるが、本文の筆致は軽やかで読みやすく、アンソロジー部分は、本文を補う資料としての役割はもちろん、読者を知の沃野へ導く扉ともなっている」とあります。実際のところ、「本文を補う」文献資料の膨大さに圧倒されますし、さらなる興味を呼び起こすものとなっています。
たとえば、第5章中の見出しに「エルドラード」がありますが、ウォルター・ローリー卿などによって文字通りの探索がなされたものの、「探索への人々の関心が次第に薄れていくと、今度はこの題材をアイロニカルに利用して世の中を批判する作品が現れる。ヴォルテールの『カンディード』である」と本文テクストにはさらっと記述され、後に1ページほどを用い、(本文テクストのルビ程の活字で)『カンディード』からの引用がなされています。
『序論』において「虚構の場所については」「扱わない」と記しながらも、最終章のテーマは『虚構の場所とその真実』です。その本文テクスト末尾には、「こうして最後にひとつの慰めが得られる。それは伝説の土地であっても、信仰の対象から虚構の対象へと変わった瞬間に真実になるということである」 と、あります。どういう意味でしょう。どうも、そこが、本書の肝(キモ)のようです。しっかり掴むことができればと願います。
2020年4月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
クフ王のピラミッド以外失われてしまった世界の七不思議とは?
ジョーンズ博士も探した聖杯は何処からきて何処へ行ったのか?
喪われたアトランティス、ムー大陸とは何だったのか?
地球の内部にも文明があるとしたら?
地球は平面ではないのか?
少年少女の頃真剣になった異世界と虚構を取り上げて、何事にも感動の薄れてしまった大人に、圧倒的な図版と解説で再び知的好奇心を震わすような好著。
難を言えば東洋が全くというほど取り上げられていないこと。荒俣宏氏等の諸作で補うしかないか…
上質紙、479頁、定価(税別¥9500)
原著イタリア語
訳者あとがきによると、英語版は省略、誤訳あるとのこと。
ジョーンズ博士も探した聖杯は何処からきて何処へ行ったのか?
喪われたアトランティス、ムー大陸とは何だったのか?
地球の内部にも文明があるとしたら?
地球は平面ではないのか?
少年少女の頃真剣になった異世界と虚構を取り上げて、何事にも感動の薄れてしまった大人に、圧倒的な図版と解説で再び知的好奇心を震わすような好著。
難を言えば東洋が全くというほど取り上げられていないこと。荒俣宏氏等の諸作で補うしかないか…
上質紙、479頁、定価(税別¥9500)
原著イタリア語
訳者あとがきによると、英語版は省略、誤訳あるとのこと。